平成23年度入学式 式辞

平成23年度入学式

式辞

始めに、このたびの東日本大震災により被災された皆さまに心よりのお見舞いを申し上げます。
本日、平成23年度入学式において、学部入学生、編入生、大学院入学生総勢2,405名の皆さんを富山大学に迎える事ができました。富山大学を代表して、皆さんに心よりお祝い申し上げます。ご家族の皆様のお慶びも大きいものと存じます。また、ご多忙の中ご臨席賜ったご来賓の皆様には厚く御礼申し上げます。学部入学生の皆さんは、大学入試という青春時代の大きな壁を乗り越え、新たな大学生活に向けての期待や挑戦の気持ちでわくわくされていることと思います。大学院に進学される方も、更なる研究活動に向け新たな決意を固められていることでありましょう。現在我が国は、未曾有の大震災により、苦難と混乱の中にあります。皆さんの中にも、ご親族やご友人の方が被災にあわれた方、また被災され様々な困難を乗り越えて本日この場に参列された方も少なくないと存じます。全国の大学においても、東日本を中心に150を超す大学で、入学式が中止あるいは延期となり、授業の再開にも大きな障害が生じております。その意味で、本日富山大学において入学式を挙行できることの意義は極めて大きいものがあり、皆さんとこの場を共有できることに感謝の気持ちを表したいと存じます。

グローバル化と経済重視の社会変革の中、これまで高等教育を担う学問の府として不変的存在であった大学においても、様々な変化が生じてきております。皆さんの新たな門出の時にあたり、富山大学の現状・特色について紹介した後、皆さんへの期待と希望を込めた私の思いを述べさせていただきます。

大学について知っておいていただきたいことは2つあります。
1つは富山大学を含め全ての国立大学は、2004年から法人化され、法的に国が管理・運営する組織ではなくなったことであります。国からの経済的支援は限られたものとなり、大学運営での経済的自立が大きな課題となっている反面、各大学の教育や研究活動の独立性・独自性が広く認められるようになりました。
もう1つは、皆さんが学ぶ富山大学は、2005年10月に、県内の既存の3国立大学、富山大学、富山医科薬科大学、高岡短期大学が再編・統合され、誕生した新大学であることです。全国で、国立大学2校の統合は多数ありますが、3大学の統合は唯一のものであり、かつ8学部に1研究所・附属病院を加えた10部局を有する大型総合大学となったことが我が富山大学の大きな特色となっています。

このように大学を巡る環境がどのように変化しようとも、大学が求める目標と存在意義は決して変わることはないと私は考えています。大学は、教育・研究・社会貢献を3つの柱とする活動組織であり、人材育成こそが第一の目標となります。学生の皆さんは大学における最大の財産であり、皆さんの成長こそが大学の発展を支える原点になると考えています。そこで、新入生の皆さんに大学生活そして人生を通し、考え追求していただきたいと思うことを3つ述べさせていただきます。

第一は「大学時代に点を蓄え、その後に続く線を考えるということ」です。

一人一人の人生は、全ての知識や経験が点となり、それが結びついた線として形作られていきます。大学時代は、真の意味で独立した個としての自己発見と研鑽の時であり、まさに皆さんがこれからの人生で描き続けていく長い線作りの新たな第一歩であります。
現在、皆さんは将来の具体的目標や人生航路を明確に持つ事ができているのでしょうか。大学で学ぶ知識、様々な出会や経験の中で磨かれる人間的感性は、大学時代には点でありましょう。その点が将来には必ず線となり、それが徐々に太い線となっていくことを期待します。その中で自らが本気で没頭できる好きなことが見つけられたなら、こんな幸せはないと思います。
私自身の経験を一つ紹介させていただきます。私は学長としては、この4月1日に辞令を受けたばかりで皆さんと同様、新しいスタートに立っている人間です。 3月までは脳神経外科を専門とする医師として富山大学附属病院で活動を続けてきました。どの学部においても、卒業後どのような専門あるいは仕事につくかを選択せねばなりません。私も医学部学生時代、卒業後に診療に従事する医師となるか研究者となるか、あるいは医師としてどの専門領域を選択するか、模索の日々を送っておりました。そのような折、脳神経外科の講義で聞いた教授の一言、「自分の脳神経外科教室を世界のトップにする。そのためには決して欧米で行われていることのまねはしない。診療・研究・教育いずれにおいても独自のものを開発、追求する。苦労は大きいが一緒にやろう。」、吸い寄せられるように脳神経外科を選ぶことになってしまいました。教授が太平洋戦争の戦闘機特攻隊パイロットで、出撃することなく終戦を迎え、失った多くの友人の無念の思いをいつも背負って生きておられたことは後で知りました。どのような背景があったにせよ、この教授との出会いが、「自分自身の発想を大切にし、明確な目標を掲げ、その達成に向け努力をする」という、私自身の基本姿勢につながったと思っています。
学生生活においては、部活動やアルバイトといった、学業以外で養われる人間関係や社会経験も大切だと思います。私は学生時代テニスに没頭しておりましたが、如何にすれば勝てるか、うまくなれるか、日々語り合いながら練習を重ねた友人がいました。また戦った他大学のメンバーとは、今も様々な交流が続いています。学生として過ごす貴重な時間、将来の人生を豊かで太い線にするため、どんなことでも良いと思います、多くの人との出会い、点を沢山作ってください。ただ漫然と時を過ごすのでは、得られる物もすり抜けていってしまうかもしれません。何事も全力で取り組んでください。結果を求める事も大切ですが、自身の頭で考え、身体で体験する時間、プロセスを大切にしてください。

第二は、人間生活における賢さと便利さの追求についてであります。

今、皆さんのなかでアップル社のiPhone等、スマートフォンを手にされている方も多いと思います。電話・メール・インターネットの3機能を一つにし、全ての操作を指で行う形にしたiPhoneは、現在の最先端情報機器であります。アップル社を創設したスティーブ・ジョブズがマッキントッシュを世に出し、PC業界に革命をもたらしたのは1984年でありました。以来約25年、人類はIT情報の活用による「より高い賢さと便利さ」を求め続け、同時にそれに適合させる形で新たな社会、世界を作り上げてきました。人類が生きる中で、賢さと便利さを追求する流れは今後とも変わらないものでありましょう。しかしその流れはなお発展の途上にあり、今回の大震災で我々が経験している現実は、その未熟さと危うさに改めて警鐘をならす出来事となりました。最近、テスラ・モーターズ会長のイーロン・マスクは、将来の人類で最も重要になるテーマは、インターネット、持続可能な新たな自然エネルギー、そして宇宙の3つであると述べております。新入生の皆さんは、まさにこのような変化の時代に生まれ、育ち、直面する課題に立ち向かいながら成長していく世代です。皆さんがそれぞれ持つ英知を大切にし、学生生活で得られる知識・経験を糧とし、人類の幸せと発展に結びつく賢さと便利さの追求を目指して欲しいと強く思います。

第三は、人としての感性、他者への優しさを持ち続けて欲しいということであります。

社会がどのように変化しようとも、人として皆さんが持つそれぞれの感性を大切に育んでください。人と人との直接の語らいや触れ合いを大切にしてください。目の動きや息づかい、仕草のなかに相手の思いを感じ、自分の思いを伝えあう優しさを忘れないでください。愛と絆のない世界に明るい未来は期待することはできません。

我々は人として生まれました。本日の式辞において、私は、情熱・情報・愛情・人情といった情のつく言葉を思いながら話をさせていただきました。皆さんが将来の豊かで充実した人生のため、富山大学において多くを学び、経験し、情を磨いて成長されることを願っております。
最後に、日本が力強く復興し、世界の発展に継続的に寄与するため、皆さんと我々教職員が力を合わせ、富山大学がその一翼を担うことを決意し学長式辞とさせていただきます。

平成23年4月7日
富山大学長 遠藤 俊郎