平成23年度学位記授与式 告辞

平成23年度 学位記授与式

告辞

卒業生・修了生そしてご家族の皆様、卒業おめでとうございます。本日、富山大学を卒業または修了し、本学を巣立っていかれる皆様の門出を、ご臨席いただいたご来賓や本学ゆかりの皆様方、本学教職員、そして在学生の諸君とともに、心よりお祝い申し上げます。本年は、73名の留学生を含む、学部卒業生1,770名、大学院修士課程修了生402名、博士前期課程修了生45名、博士課程修了生42名、論文博士3名の、合計2,262名に学位記を授与することができました。
卒業生・修了生の皆さんは、これから産業・行政・教育・研究などそれぞれの領域で、日本の将来を担う役割と責務をもった一人のプロフェッショナルとして、新しい世界への第一歩を踏み出すことになります。本日の皆さんの卒業、学位記授与式の場を共にした学長として、皆さんへの期待と願いを込め、告辞を述べさせていただきます。

1970年以降、科学・技術の目覚ましい進歩があり、社会・経済体制が急激に変貌すると共に、人々の考え方や生き方などその価値観も大きく変化してきました。特に近年は、コンピュータ技術の生み出したデータ処理能力や情報伝達能力の大きさやスピードは、人間の能力を遥かに凌駕するものとなり、世界の国々や企業は、活動・活躍の場を地球規模で考えながら、それぞれの独自性と優位性を創出・拡大することを競っています。このような世界的潮流の中で、これまでは繁栄と安定を疑うことのなかった日本社会においても、様々な歪みや混乱が生じています。学問研究や専門的業務をじっくりと行っていくには、いささか慌ただしすぎる時代となっています。
人は自身が生きる時代を選ぶことはできません。しかしこれまでの歴史が示すように、時代がどんなに厳しい状況にあっても、人は常に進歩と改革への挑戦、努力を重ね、新たな時代を創出することで、発展の歴史を重ねてきました。それが人の持つ底力であり、人としての生き様でありましょう。今の時代こそ、我々は確固たる信念と明確な目標をもち、それを実現するために良く思考し、スピード感を持って行動することが求められています。特にこれからの時代を担う皆さんには、分野を問わず、これまで以上に高いレベルでの文化的・科学的思考や技量、人間力をもち、新しい価値観で新しい歴史を創っていただかねばなりません。皆さんのこれからの活躍に期待を込め、心に刻んでいただきたいことを2点申し上げます。

一つは、皆さんは、国民の方々により支えられた我が国の伝統ある高等教育機関、富山大学の卒業生であり、それぞれの領域で一人のプロフェッショナルとして生きていくことが役割・責務であると強く認識していただきたいことです。心構えとして、大切にしていただきたい3つのことを述べます。
第1は、あなたは誰のために、何を目標とし、その役割と責務を果たすかです。プロフェッショナルは、自己の専門的知識・技量を、必要としてくれる人と社会のため使わねばなりません。貢献せねばなりません。例えば、企業者と消費者との関係、医療者と患者さんとの関係、主役は常に消費者であり、患者さんです。求められるニーズに応え、得られた結果をともに喜び合えることこそが、プロフェッショナルとしての幸せであります。名誉や利益は結果として生じるもので、自分自身のささやかな喜びとはなるでしょうが、それを目的としてはなりません。
第2は、プロフェッショナルとして信頼に足る卓越した力量・技量を獲得し、継続的に提供するため、常にベストを尽くすことであります。真のプロフェッショナルは一つの成果や成功で満足することなく、その成果を更に大きなものにするための研鑽・努力を続けます。目に見えた成果・結果は既に過去のものであり、新たに追求すべき発見・進歩はすべてその先に存在します。
第3は、人との連携、絆を広げることです。専門家として次世代を引き継ぐ優れた後輩を育てること、異業種の人々とは、常に刺激し合い、連携の輪を広げることです。どんな領域・職種においても、プロフェッショナルがいます。プロフェッショナル同士が他者への敬意をもち、共に努力を重ねる時、その力は相乗的に高まることを忘れないでください。

プロフェッショナルとしての心構えを述べてきましたが、皆さんはそれをいつ果たせるとお思いでしょうか。私は1971年大学を卒業し、脳神経外科の専門医師そして、大学人として65歳となった今日まで、40年余の人生を、新しい進歩と変化の時代と共に生きてきました。身体的衰えを感じる年になり、これまでの人生を振り返ると、専門領域の如何に関わらず、人は己が選んだプロフェッショナルの道で、十分な活躍を続けることができる期間は、40年が一つの目安になると考えています。そして40年を25歳から65歳にあてはめるならば、人間としての成長と変化は、10年ごとに4つの時代に分けて考えられるとも思っています。

20代から35歳半ばまでの最初の10年は、プロフェッショナルとしての力を育む基礎作り、研鑽と辛抱の時代。次の10年は自身の専門領域に独自の創造性を模索、見いだし、自己を発揮する時代。そして40代半ばからの10年は、人生の充実期であり、それまでに獲得してきた自身の力を社会に還元する成熟の時代です。残る10年は完成期であり、後継者の育成、さらには社会的立場での貢献や組織への責任を果たすことが役割の時代です。
40年先の世界を予想することはできませんし、皆さんにとっては10年後も遠い将来と思われることでしょう。しかし、人生に与えられた時間には限りがあり、40年は決して長い年月ではありません。一日、一日を大切に過ごしてください。特にこれからの10年はその後の人生を方向付ける重要な時期になります。是非、この時期に自らを鍛え、自己を確立することを目指してください。
勿論、私が育った時代と皆様がこれから生きる時代では、環境が明らかに異なります。自身の専門性のみを追求することが許された我々の時代に比べ、今はより幅広い人間力、総合力が求められる時代となっています。急激に変化・成長する世界で、人間・組織・社会に求められているもの、そのキーワードとして言われる「マネージメントとイノベーションの力」を持てるよう努力してください。
このキーワードについて、経営学者のドラッカーは、個人に求められるマネージメントとは、己の志を育みそれを持ち続けること、人との交わりや議論の中に真の信頼関係の輪を築き拡げていくこと、挑戦の気持ちで経験を重ね、失敗・研鑽・努力・成功の中に学びを重ねること、そしてそれらを集約し一つの形・組織に作り上げることであると説いています。一方イノベーションについては、基本的・原則的知識を習得・理解し、それを糧に新しい事実・知見を発見する、あるいは専門的知見や情報を複合的に集約し、既存の形にはとらわれない新しい形を創りだすこと、即ち人類・世界に新たな価値を生み出すことであると述べています。

皆さんの心に刻んでおいていただきたいもう一つの点は、人として、真摯さ、優しさ、そして己の感性を大切に持ち続けて欲しいということです。社会がどのように変化しようとも、皆さんが持つそれぞれの感性を大切に育んでください。人と人との直接の語らいや触れ合いを大切にしてください。人と語り合う時、目の動きや息づかい、仕草のなかに相手の思いを感じ、自分の思いを伝えあう優しさを忘れないでください。私は、人生において最も大切にしている言葉は何ですか?と問われた時、「愛」と答えています。
本日は、富山大学を巣立つ2,260余名の皆さんが一堂に会しています。私は告辞を述べながら、皆さんの発する若い力にぞくぞくするような感激を覚え、そして大きな勇気をいただいています。皆さんは同じ時代を富山大学で過ごした仲間であります。将来、世界のどこかで出会ったとき、学部は違っても「富山大学」同窓生というだけで、打ち解けられる不思議な仲間たちであります。我々の富山大学は、2005年に旧富山大学、富山医科薬科大学、高岡短期大学の再編・統合により、全国でも有数の大型総合大学として新たに誕生し、6年半が経ちました。独自の歴史と特色をもつ3大学の統合は全国唯一であり、これまでの国立大学の歴史の中で最大の改革を成し遂げた大学と言っても過言ではありません。それ故に皆さんの富山大学での生活には、多くのご苦労もあったと存じます。私は、富山大学が世界に新しい業績や情報を発信できるNational Centerとして、同時に地元に貢献できる知的財産と人材を提供できるRegional Centerとして、その役割を十分に果し、皆さんにとって誇れる母校として発展できるよう、教職員の皆さんとともにさらなる取り組みを継続していくことをお約束致します。皆さんも同窓生として、これからの母校・富山大学発展のため、様々なご意見やご支援を是非寄せて頂けるようお願いいたします。

最後になりますが、皆さんの学生時代の社会的出来事として、昨年3月11日の東日本大震災を忘れることはできません。被災地は今もなお復旧復興が遅れ、被災された方々は物心両面で困窮、苦難の中にあります。皆さんの中にも被災された方がおられることと存じます。我々は、今回の震災での経験と感じた心の痛みを風化させることなく、人としての優しさと苦難に打ち勝つ心を大切に持ち続けて行かねばなりません。
人生は、後戻りのできない一方通行の道です。皆さんが目標に向かって挑戦し、人を愛し、素晴らしき人生を送られることを祈り、告辞といたします。

平成24年3月23日
富山大学長 遠藤 俊郎