平成24年度学位記授与式 告辞

告辞

 例年にない厳しい冷え込みの日々がすぎ、富山の地に春が訪れようとしています。只今、学部卒業生1,769名、大学院修士課程修了生369名、博士課程修了生41名、論文博士3名の合計2,182名に学位記を授与致しました。この中には、64名の留学生の方が含まれています。まず始めに、富山大学を代表し て、これまで研鑽努力を重ね、人生の一つの区切りであるこの日を無事迎えられた卒業生・修了生の皆さんに、心よりのお祝いを申し上げます。また本式典にご 参列いただいている、多数のご両親をはじめ、ご家族の皆様におかれましては学生諸君の大学/大学院生活を支えてこられた日々には、多くのご苦労があられたことと存じます。卒業、修了誠におめでとうございます。また卒業生、修了生の門出を祝福するため、ご多忙にも関わらずご臨席を賜った、来賓の方々、本学ゆ かりの皆様方には厚く御礼申し上げます。このように2,000名を超える若人が一同に介し、社会に巣立つ日を迎えることができること、私ども教職員にとっ ても大きな喜び、感激でございます。 本日の皆さんの卒業、学位授与式の場を共有させていただいた学長として、皆さんへの期待と願いを込め、告辞を述べさせていただきます。

 近年の科学・技術の進歩は、世界そして日本の社会・経済構造に大きな変革をもたらし、これに伴い人々の考え方や生き方などその価値観も大きく変化しています。特に21世紀に入り、9.11、イラク戦争、リーマンショック以降に続く政治・社会情勢の不安定さ、地球規模での温暖化や環境破壊など、我々人類を取り巻く状況は年々厳しさを増し、将来への不安も生まれています。特に皆さんの在学中には、世界を震撼させた東日本大震災がありました。被災地では、今も津波・原子力発電所事故による被害の傷跡が大きく残り、人々は苦しみと心の傷を負った日々を送っています。決して風化させてはならぬ出来事です。国政では、2009年の民主党政権の誕生、そして2012年の自民党の復権という新たな政治変化もありました。
 このような時代の中で、最も大きな変化と言えるのは、スマートフォンの普及に代表されるIT技術の進歩、情報システムの変革、定着であったと考えます。インターネットなどコンピュータ技術の生み出したデータ収集・整理能力、情報伝達能力の大きさやスピードは、人間の能力を遥かに凌駕するものとなり、人間社会は地球規模で一つの世界を考えなければならぬ時代を迎えています。世界の潮流となっている個別的・異質的な形を是とする新たな資本主義体制の広がりの中で、日本が国民生活を支えるため形成してきた、画一的・平均的な生活・経済補償体制の維持は、大きな歪みと危機となりまた、これまでの日本を支えてきた、個々の勤勉さや平均的能力の高さのみでは、急速に変化する世界の流れには通用しない時代を迎えています。しかし一方では、日本人の持つ人間力や技術力に対する世界からの信頼、期待は今もなお大きなものとして続いています。

 卒業生・研修生の諸君は、このような大きく変化する時代の中で、大学やこれまでの人生で身に付けた知識・技量・経験を糧に、一人の専門的職業人・プロフェッショナルとして社会に踏み出すことになります。厳しい時代故に、社会が若い力にかける期待は極めて大きなものとなっています。旧い世代にはない感性を持つ皆さんが、創造力あふれる人間力を発揮し、新しい価値観で新しい歴史を創るには、正にチャンスの時代とも言えます。確固たる信念と明確な目標をもち、思考・行動を止めることなく、皆さんそれぞれの新しい人生と将来に向けた挑戦を続けてください。

 プロフェッショナルとして果たすべき役割と責務について考えてみます。
 プロフェッショナルは専門的な知識・技量を持つ故に、所属する組織・社会に貢献し、その責務を果たさねばなりません。プロフェッショナルは、信頼される、卓越した力量・技量を習得し、継続的に提供するとともに、良き後継者を育成し、伝統を継承することを心がけなければなりません。
 真のプロフェッショナルは、一つの成果や成功で満足することなく、継続的発展のため研鑽・努力を続けます。目に見える成果・結果は既に過去のものであり、新たに追求すべき発見・進歩は、すべて今は見えない先にあることを忘れてはなりません。昨年ノーベル医学・生理学賞を受賞した山中博士は、「ノーベル賞を受賞したことは既に過去の実績であり、明日からは患者さんを救う臨床応用にむけた更なる研究に取り組みたい」と語っています。
 また近年は、多くの専門領域で先鋭化かつ深掘りが進み、その内容の全てを一人で背負うことは困難となっています。このためプロフェッショナルとしてさらなる発展を目指すには、同一分野のみではなく他分野の人々との連携、協力が強く求められています。目的を共有するプロフェッショナル同士が、他者への敬意をもち、共に努力を重ねる時、その力は相乗的に高まることを忘れてはなりません。新しい組織、チーム作りの芽は、若い世代を中心に全国で広がっています。また組織、社会発展の要となる人材、後継者の教育・育成についても、様々な取り組みが勧められています。皆さんも、人との出会い、自己を磨く機会を大切にして、プロフェッショナルとしての知と技能の連携、成長を探ってください。

 私は大学を卒業後の40年、医師・大学人として生きてきました。自身の経験や社会の変化を振り返り、人がプロフェッショナルとして十分な活躍のできる期間は40年が目安であり、この間の成長と変化は10年ごとの4つの時代に分けられると考えています。大学卒業後の最初の十年はプロフェッショナルとしての力を育む基礎作り、研鑽の時代、次の10年は自身の専門領域に独自の創造性を見いだし、自己を発揮する時代、そして40代半ばからの第3の10年は、人生の充実期にあたり、社会的信用も得てその力を社会に還元する成熟の時代です。残る10年は完成期であり、後継者の育成、さらに社会的立場での貢献や組織への責任が役割となる時代です。皆さんにとって40年先の世界を予想することはできませんし、10年後も遠い将来かもしれません。ただ皆さんがプロフェッショナルとしてスタートを切るこれからの十年をどのように過ごすかは、その後の人生を大きく左右します。
 政財界や教育界のトップの方々に「自身の人生を振り返り、今の20代~30代の若者に望むこと」を尋ねたことがあります。多くの方がはじめにあげたことは、「語学を身につける、これは30代までの必須事項」「人との出会いを大切にすること」「書物を読み、趣味を持ち、人間的素養を養うこと」の3点でした。同時に、「自分自身の特長・強みを見つけ、それを伸ばすこと」「自分の意志を持ち、自身の五感で感じ、率先して行動・挑戦すること」「自分の取り組んでいる仕事や研究は、世界で通用するか、トップに立てるかを常に自身に問い続けること」「失敗をおそれず、常に挑戦し、結果には責任を持つこと」「失敗こそは最大の経験、財産であり、失敗は隠すのではなく、原因と対策を明らかにし、新たな道を探ること」「多くの人と付き合い、その中で良い上司、生涯の友人と出会えたら最高の幸せ」「スポーツ、芸術を楽しみ、美しいと感じることのできる感性、苦労を乗り越えられる体力を育み、維持する」などの思いが語られました。私自身は、「真似をしない」をモットーに考え、行動してきました。重要なことは、あなた自身が何を考え、如何に行動するかです。チャンスを掴む場は与えられるものではなく、見つけ出し、掴み取るものです。

 ここまで皆様の今後の成長と幸せを願い、プロフェッショナルとしての心構えにつき述べてきました。一方でプロフェッショナルは、より高い専門性や成果を獲得するに従い、人としての視野が狭くなり、志向や行動が独断的で傲慢になる傾向が見られます。人は一人で生きていくことはできません。皆さんには、生涯を通じ、人としての感性を育み、相手の気持ちを理解できるやさしさと賢さを持ち続けていただきたいと願っています。人と人との直接の語らいや触れ合いのなかで、いつも「人を愛する気持ち」を大切にしてください。混沌とした今の世界に、最も必要なものは「愛」であると思っています。

 富山大学は再編統合後7年半がたちました。独自の歴史と特色をもつ3大学の統合は全国唯一であり、教職員一同は、今も様々な課題と取り組みながら大学の発展を目指しています。私は、富山大学が世界に向け新しい業績や情報を発信するNational centerとして、同時に地元に貢献できる知財と人材を提供できるCommunity Centerとして、その役割を果し、皆様にとって誇れる母校として発展できるよう、教職員の皆様とともに努力してまいります。皆さんも同窓生として、母校富山大学の発展のため、これからもご意見ご支援をお寄せくださるようお願い致します。人生は、後戻りのできない一方通行の道です。目標に向かって挑戦し、人を愛し、素晴らしき人生を送られることを祈り、学長告辞と致します。

平成25年3月22日
富山大学長 遠藤 俊郎