2012年を振り返って(2012年 年末挨拶)

 2012年も残すところ僅かとなりました。日本は、少子高齢化、企業産業力の低下、膨大な国家負債など、厳しい社会経済変化の中にあります。本学においても、給与の削減や大学改革にむけた急速な動きなど、大学の将来に関わる重要課題が相次いで問われた年でありました。多くの課題は、本質的には国政・国策レベルでの解決が求められる問題でありましょう。しかし、巷に吹き荒れる逆風に打ち勝ち富山大学の発展を目指すためには、全教職員が現状を直視し、困難を前にしてただ留まるのではなく、常に前へ進む行動を継続することが必要です。現在全学で取り組んでいる「ミッションの再定義」は、正に本学の10年〜20年後の姿を描き、将来像を作る絶好の機会であります。皆様の意見を集約し、より良いものを創り上げたいと考えておりますので、ご協力ご尽力の程、宜しくお願い致します。

 さて、学長として1年10ヶ月を過ごし、正直のところ「苦しきことのみ多かりき」の心境ではありますが、この間に自身の専門分野や世代とは異なる多くの方々と知己を得ることができたことは、良き経験であり幸せであったと思っています。出会いの形は、講演会、研修会、各種ミーティング、あるいは施設訪問等様々でありました。
 その中で、プロフェッショナルとしての凄まじい生き様、30代後半を中心とする若者世代の新しい思考や行動力など、多くの刺激や感激を味わうことができました。具体例をいくつか書いてみます。

 ※ 神岡の東京大学宇宙素粒子研究施設を訪問した際、山の中に掘られたトンネルの中で、大型低温重力波検出装置(KAGRA)のネジ調整をしていた若手研究者の言葉。「私たちの仕事は、先ず世界一の観測装置と観測環境を作ることです。装置そしてそれを置くトンネルまで、設計から完成まで全て自力でやらねばなりません。研究データは装置ができたその先で待っています。装置が完成できず研究生活を終わる研究者も少なくありません。でも、世界一の装置ができれば、そこには未知の素晴らしい何かが待っているはずです。僕はそれが楽しみで、トンネルの中で装置作りを毎日コツコツ、そしてワクワクしながらやっているんです。」
 ※ 多業種の世代を超えたメンバーが集まり、一つのテーマで意見交換をする企業主催の勉強会にもいくつか参加しました。そこで出会ったベンチャー企業の39歳社長の言葉。「会社は大学の後輩4名と相談、それまで勤めていた企業・省庁を途中退職し共同で立ち上げました。これまでの日本ではなかった企業の形を創ります。勝負は世界が相手です。」それ以外の場でも、異業種のメンバーが集まり、既存にはない形での事業・活動を展開している30代半ばから40代の若者には数多く出会いました。私たち世代とは異なる感性、志向を持ち、若者達は新しい挑戦を始めているようです。個々の活動内容については疑問や危うさも感じますが、次の世代を担う彼らの取り組みを応援していくことは、シニア世代の役割と感じています。
 ※ 参議院文教委員会の議員メンバーが本学視察に訪れ、懇談会の席で聞いた橋本聖子議員の話。「私がスケート連盟の会長として最も大事にしていることは、世界スケート連盟の競技規則検討会議に、競技実績があり英語で議論できる日本人を常に必ず一人は送り込むことです。ルール改正に意見を主張し、改正があればそれを速やかに選手に伝え準備する、それができなければ世界で勝つことはできません。」 日本フィギュアスケート陣の強さがすぐに頭に浮かび、納得の一言でした。最近のスポーツ界では、世界を目指すプロ選手が増えています。若者で言われる「内向き志向」とは全く無縁の動きです。世界のより高いレベルでの環境に身を置き、向上を目指し、かつ結果を出している彼らの姿には本当に勇気づけられます。
 ※ 最近行われたサッカーの世界クラブ選手権で優勝したブラジル監督の一言も心に残りました。「ブラジルの優秀な選手はどんどんヨーロッパに引き抜かれていく。そして今日の我々の戦い方は組織重視のヨーロッパスタイルであった。個人技を重んじるブラジル本来の戦いではないという批判はあるだろう。しかし世界で勝つためには、戦い方を変えるしなやかさとしたたかさを持たねばならない。変化の中で個人の力は更に進化する。そして今日、我々は世界一になった」
 ※ それ以外にも、産業界の○○周年記念会やパネルディスカッションなどに参加し、高峰譲吉をはじめとする富山出身の先人の偉業や、富山企業発展の歴史等、多くのことを知り、そして思いを新たにすることができました。1年を振り返り、「一人一人の思いと努力の積み重ねが新しい歴史になる」と改めて強く感じています。

 学長の年末のご挨拶としては型破りの形になったことご容赦ください。富山大学にとって、2013年は今年以上に厳しい、そして重要な年になります。富山大学の揺るぎない発展を目指し、歩を進めていきましょう。
 新しい年の、皆様の益々のご多幸とご発展を祈念致します。

2012年12月
富山大学長 遠藤 俊郎