平成25年度学位記授与式 学長告辞

告辞

 厳しい冷え込みの日々が過ぎ、富山の地に春が訪れようとしています。只今、学部卒業生1,784名、大学院修士課程修了生332名、博士課程修了生47名、論文博士6名の合計2,169名に学位記を授与致しました。この中には、67名の留学生の方が含まれています。富山大学を代表して、卒業生・修了生の皆さんに、心よりお祝いを申し上げます。ご両親やご家族の皆様、学生諸君を支えてこられた日々には、多くのご苦労があったことと存じます。ご卒業、誠におめでとうございます。また卒業生、修了生の門出を祝福するため、ご多忙にも関わらずご臨席を賜わりましたご来賓の方々や本学ゆかりの皆様方には厚くお礼を申し上げます。このように2,000名を超える若人が一同に介し、社会に巣立つ日を迎えることができること、私ども教職員にとっても大きな喜び、感激でございます。皆さんへの期待と願いを込め、告辞を述べさせていただきます。

 近年の科学・技術の進歩や情報手段の変化・普及により、世界そして日本はこれまでの歴史には見られなかった社会・経済構造変革の時代を迎え、これに伴い人々の考え方や生き方など、その価値観も大きく変化しています。地球規模での温暖化や環境破壊など、我々人類が生きる上での新たな問題も顕在化し、その対応が求められています。皆さんの在学中には、東日本大震災がありました。皆さんの中にも被災・被害を受けられた方が多数おられます。被災地では、今もなお原子力発電所事故や津波被害の傷跡が残り、多くの人々が苦しみと心の傷を癒すことのできない日々を送っています。『福島の復旧・復興なくして日本の再生なし』我々はこの言葉を心に刻んでいかねばなりません。

 今人類社会は、地球規模でひとつの世界を考える時代を迎えています。個別的・異質的な形を是とする新たな資本主義体制が世界的な流れとなり、これまで日本が国民生活を支えるため形成してきた、画一的・平均的な生活・経済保障体制は歪みと危機に直面しています。日本人の特徴とも言える個人の勤勉さや平均的能力の高さのみでは、変化する世界に対抗することは難しくなっています。しかし一方で、日本人の持つ人間力や技術力に対する世界からの信頼、期待は今もなお大きなものがあります。卒業生・修了生の諸君は、このような大きく変化する時代の中で、これまでに身に付けた知識・技量・経験を糧に、一人の専門的職業人・プロフェッショナルとして、そして一人の人間として、新たな世界に向けた第一歩を踏みだします。
 プロフェッショナルは専門的な知識・技量を持つ故に、所属する組織・社会に貢献し、その責務を果たさねばなりません。プロフェッショナルは、信頼される、卓越した人間力・技量を習得し、継続的に提供、発信するとともに、良き後継者を育成し、伝統を継承することを心がけなければなりません。厳しい時代故に、若い世代が、新しい価値観で社会に挑戦し、新たな歴史を創ってくれることを、社会は待っています。

 新たな時代を生きる皆さんに考えていただきたいこと、同時にこれまでの時代を生きてきた我々が共に考えねばいけないこと、について述べます。
 それは、現在の世界における「文化と文明の意味」についてです。昨今「文化」の言葉は、様々な形で耳にしますが、「文明」について語られることは多くありません。 辞書で「文化」の項を見ますと次のように書かれています。『1「広義の文化」: 人間の生活様式の全体。人類がみずからの手で築き上げてきた有形・無形の成果の総体。 それぞれの民族・地域・社会に固有の文化があり、学習によって伝習されるとともに、相互の交流によって発展してきた。 
2 「狭義の文化」 広義の文化の中で、特に、哲学・芸術・科学・宗教などの精神的活動、およびその所産をさす。物質的所産は文明とよび、文化と区別される。即ち、狭義の「文化」は民族や社会の風習・伝統・思考方法・価値観などの総称で、世代を通じて伝承されていくものを意味し、「文明」は人間の知恵が進み、技術が進歩して、生活が便利に快適になる面に重点がある。「文化」と「文明」の使い分けは、「文化」が各時代にわたって広範囲で、精神的所産を重視しているのに対し、「文明」は時代・地域とも限定され、経済・技術の進歩に重きを置くというのが目安である。』以上のように書かれています。
 昨今の状況を鑑みますと、「文化」の言葉は広義で使われることが多く、またその中に含まれる「文明」があまりにも巨大となり、「狭義の文化」が軽視されています。文化・文明はともに人を幸せにする力です。しかし文化のない文明には、時に空虚感を感じます。どのような分野においても、我々は、日本人としての「文化」を忘れてはなりません。日本の歴史・伝統・精神性を学び、理解し、また決して固定化することなく、それを伝承・発展させていかねばなりません。また、これから皆さんが世界で活躍される時、例えば、アジア諸国で企業活動を展開される時など、それぞれの地で異なる歴史、宗教、環境等を背景にしたそれぞれ独自の異なる文化があることを常に意識し、行動してください。互いの文化を理解し尊重し合うことで、過剰な産業競争や搾取や差別化といった負の現象を排し、地球規模で人々が幸せを共有できる真のグローバル化を実現し、そこに新たなイノベーションを創出してください。

 今日この場には、富山大学で勉学、研究生活を共にした若い仲間達が一同に集まっています。人が生きるとき、最も必要なものは、人と人との心の結びつきです。皆さんには、生涯を通じ、人としての感性を育み、人を愛する気持ちを大切にして頂きたいと願っています。富山大学も再編統合後8年半が過ぎました。皆さんは、大学生活の中で、大学祭やサークル活動において、キャンパスを越えた連携を実現し、我々に見せてくれました。私は、富山大学が世界に向け新しい業績や情報を発信するNational Centerとして、同時に地元に貢献できる知財と人材を提供できるCommunity Centerとして、その役割を果し、皆さんにとって誇れる母校として発展できるよう、教職員とともに努力してまいります。皆さんも同窓生として、母校富山大学を見守り、発展のためのご意見ご支援をお寄せくださるようお願い致します。

 皆さんが、素晴らしき人生を送られることを祈り、学長告辞と致します。

平成26年3月21日
富山大学長 遠藤 俊郎