未来を拓く:おもしろい授業・おもしろい研究

『ほめ』は人のためならず?

「情けは人のためならず」(人に対して情けを掛けておけば,巡り巡って自分に良い報いが返ってくる)とはいいますが,今回は「『ほめ』は人のためならず」のお話です。

みなさんは,よく人にほめられますか?または,ほめられた思い出がありますか?
もしかしたら多くの人は,大好きな先生にほめられて,嬉しくて思わずニッコリしたおぼえがあるかもしれません。研究の世界でも,先生がよく子どもをほめると,児童生徒の学校生活の充実感が増したり,授業への積極的な参加が増えたりすることがわかっています。

それではもうひとつ質問です。
みなさんは,よく人をほめますか?
人を意識的にほめることって,あまりしないですよね。なんだかお世辞っぽくなりそうだし,むしろ疲れてしまいそう。でも,相手が喜んでくれたらそれは嬉しいかも…?

実は,研究の世界でも,人にほめられることによる効果は明らかにされてきているものの,人をほめることによるほめ手自身への効果についてはよくわかっていませんでした。

よくわかっていないのなら調べてみよう!というのが研究者の性(さが)。
そこで私たちは,学校の先生が生徒をほめることによる先生自身への心理的影響について研究しました。

中学校の先生数名に,1ヶ月間,生徒のことを意識的にほめるようにしてもらい,その期間中の生徒と先生自身の学校生活の充実感の変化について調べました。

その結果,ほめられる経験がふえた生徒たちの学校生活の充実感が向上したことに加え、先生たち自身の充実感も向上したのです。
まさに、「『ほめ』は人のためならず」であることが実証されたのでした。(図1)

図1.ほめの増加にともなう先生自身の充実感の向上(飯島他,2020を一部改変)

ちなみに,『ほめ』というと,いわゆるほめ言葉をかけたり,ご褒美をあげることだけだと思われがちですが,そんなことはありません。
生徒が努力していることを「がんばってるね」と応援したり,手伝ってくれたことに「ありがとう」と感謝を伝えたりすることも含まれます。
『ほめ』とはどういう働きかけなのか?という疑問から行った別の研究では,『ほめ』の多様な方法やその構成要素を明らかにしました。(表1)

表1 教師が行う『ほめ』の構成要素(飯島他,2018を一部改変)

『ほめ』をうまく伝えるためには、日頃から相手のことをよく観察し、そのうえで相手のことをしっかりと認め、働きかけることが何より大切なことです。そして、『ほめ』の力が発揮される場所は学校現場に限られるものではなく、子育て場面や職場など、幅広い分野で活用できるものです。
今後は、人のためでもあり、人のためならぬ『ほめ』の力を多くの人が効果的に活用できるように、研究活動および臨床実践をすすめていきたいと考えています。

飯島 有哉 先生

引用文献

  • 飯島 有哉・山田 達人・桂川 泰典(2018).教師が行う「ほめ」の構成要素に関する文献研究 学校メンタルヘルス,21,181–193.
  • 飯島 有哉・山田 達人・桂川 泰典(2020).教師の主観的賞賛行動が生徒の学校生活享受感情および教師自身のワーク・エンゲイジメントに与える効果プロセス 教育心理学研究,68,388–400.