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世界一の高性能焼却炉がリサイクルの思わぬ障壁に?

掲載内容は当時のものです。

リサイクル率は1980年代から90年代にかけて、先進国全体で急速に増加しましたが、2005年頃から多くの国で横ばいの傾向がみられています。その理由の一つが焼却技術の画期的な進歩にあると言われています。世界で最も多くの焼却炉を持つ日本では90年代末に焼却施設のダイオキシン問題が大きな社会問題となリましたが、その後、焼却炉の大型化を進めることで、高温での焼却が可能になりダイオキシン問題は解決しました。2000年代に入ると3Rの標語のもと、廃棄物の発生抑制が過去20年で大きく進みました。焼却炉は24時間継続運転することではじめてダイオキシンの発生を防ぐことができますが、廃棄物の発生抑制は稼働率を低下させます。これは焼却炉の管理者には燃やすものがない場合にリサイクル可能なものも燃やすインセンティブがあることを意味します。つまり、クリーンな焼却とマテリアルリサイクルはトレードオフの関係になり得るのです。

図1:関東地方の焼却炉の立地 (人口密集地でもこれだけある)

本研究では、この問題を経済理論モデルとして定式化し、各主体の合理的な行動を仮定するとトレードオフ関係が生じることを示しました。次に、市町村の実際のデータを用いて理論的な結果を実証的にテストしたところ、過剰な焼却能力を持つ自治体は実際にリサイクル率が低い傾向にあることが示されました。近年、EUを中心に高いリサイクル率を掲げる国が増えていますが実はそれらの国も中国による廃棄物輸入禁止政策により、自国の焼却施設を増強していると言われています。本研究は、多くの先進国の政策立案者が、二つの相反する政策を進めていることを実証的に指摘した最初の論文です。

経済学を学んでみたいと考えている高校生へ

経済学の学問としての特徴の一つに、複雑な社会問題を単純化し数理的なモデルで表すことで「望ましい社会」を定義することがあります。その上で実際はどうなっているかを比較可能な形で考えて、「望ましい社会」と「実際の社会」が乖離していないかを確認します。乖離している場合に「望ましい社会」に近づけるための政策はどのようなものかを提案します。最初はとっつきにくいかもしれませんが、社会問題の解決策を論理的に考えたいと思っている皆さんにはうってつけの学問です。

  • 共同研究者名/Dr. Thomas Kinnaman (Department of Economics, Bucknell University, PA, USA)
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