未来を拓く:おもしろい授業・おもしろい研究

ギョッ!魚を使って脳の病気を理解する!?

掲載内容は当時のものです。

アルツハイマー病や脳卒中などの脳の病気は、治療後の経過あるいはその見通しが良くない深刻な病気が多くあります。しかし、満足な治療が必ずしも行われておらず、有効な治療法の開発が求められています。私たちの研究室では、様々な脳の病気のうち脳梗塞に焦点をあてた研究を進めており、その研究には小型の魚類であるゼブラフィッシュを使用しています。人の病気の研究を行うのにゼブラフィッシュを使用するのは、主に以下の3つの利点があるためです。

①写真1のように成体は縞模様(ゼブラ柄)ですが、稚魚は透明であり体内が透けて見えます。したがって、体の外から体を傷つけずに観察することが容易となることから、脳の観察が非常にやりやすいという利点があります。

写真1 ゼブラフィッシュの成体(A)と稚魚(B)

②遺伝子を操作するための手法がたくさん用意されており、それらを用いた研究を行うことが容易です。特定の部位に蛍光タンパク質を発現させることにより、様々な体内の情報を観察することが可能です。例えば、動画1では血管の細胞に緑色の蛍光タンパク質を発現させており、脳における血管の構造がよく見えます。

動画1 ゼブラフィッシュの脳血管の構造。
血管内皮細胞に緑色の蛍光タンパク質を発現させて可視化した。

③大きくなっても5センチ程度の小型の魚類であるため、限られた飼育スペースでも多くの魚を飼育でき、また同一条件での飼育が比較的容易にできます。

これらの利点を活かし、神経細胞などの脳にある細胞と血管の構造やその血流の観察が容易であるゼブラフィッシュを用いて、飼育水の中の酸素濃度を一時的に低下させることで一過性脳梗塞モデルゼブラフィッシュの作出に成功しました(動画2)。

動画2 ゼブラフィッシュ脳梗塞モデルにおける血流変化。
一定時間後に一旦血流が停止し、その後通常の酸素濃度に戻すことによって、
血流の再開が観察された。

現在、このゼブラフィッシュによる脳梗塞モデル動物を使用して、脳血管を構成する細胞や脳血管を流れる細胞と神経細胞などの脳にある細胞との相互作用を明らかにするための研究を進めています。これらの研究を通じて、脳梗塞の新しい治療標的を探索し、治療薬の開発に貢献することを目指しています。