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和漢薬の臨床研究でニクジュヨウエキスにロコモティブシンドロームの歩行機能を改善する効果を確認

富山大学和漢医薬学総合研究所・神経機能学領域の稲田祐奈助教、楊熙蒙助教、東田千尋教授の研究グループでは、ロコモティブシンドローム(※)傾向のある被験者を対象に、生薬のニクジュヨウのエキスの効果を検討し、12週間の投与によって歩行機能の改善がみられる知見を得ました。

研究グループはこれまでに、モデルマウスを用いた研究により、骨格筋に投射する軸索の伸展を促して骨格筋萎縮を改善し、骨格筋機能改善作用を示す和漢薬としてニクジュヨウを同定していました。そこで本研究ではヒトでの効果を検証するため、臨床研究として「ロコモティブシンドロームに対するニクジュヨウエキスの予防及び改善効果の研究」を行いました。

40歳以上80歳以下の方で、“運動器疾患”あるいは“運動器疾患の予兆”を示唆する、ロコチェック7項目のうち一つ以上該当する方など、適格基準に合致した被験者を、ランダムに2群に分けて、二重盲検法によって、プラセボ(偽薬)またはニクジュヨウエキスのどちらかを12週間服用しました。飲む前と後において、四肢の筋肉量の測定、握力、立ち上がりテスト、2ステップテスト、5 m歩行テスト、ロコモ25の解析を行いました。

60歳以上または65歳以上の層別解析において、プラセボ群と比較してニクジュヨウエキスの投与群では、2ステップテストにおける歩幅の増加が有意に示されました(図1)。また、2ステップテストでの歩幅と、5 m歩行テストによる歩行スピードの両方を改善する人数が、60歳以上において、ニクジュヨウ投与群で有意に多いことが示されました(図2)。また、血液検査においても自覚アンケートにおいても、ニクジュヨウエキス投与による副作用は検出されませんでした。

この研究成果は学術雑誌 Nutrientsに2021年1月18日に掲載されました。

図1

図2

(※)ロコモティブシンドローム

「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態 」のことを表し、2007年に日本整形外科学会によって新しく提唱された概念です。社会の高齢化に伴い、介護の原因に運動器の障害が大きくかかわるようになっていますが、筋肉や骨を強化するための運動介入や栄養強化が勧められているのが現状であり、より効果的な方策は十分ではありません。