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腫瘍マーカー遺伝子モデルの開発~進行すい臓がん患者に適切な手術の指標を~

本研究のポイント

・膵臓がんは進行した状態で診断されることが多く、生存率の低いがんのひとつです。
・治療には、抗がん剤や放射線治療に加えて、適切な時期に手術することが重要です。
・手術の可否の判断には腫瘍マーカーが参考になりますが、その個人差が課題でした。
・腫瘍マーカーと遺伝子タイプの組み合わせがよい指標となり得ることを発見しました。

研究概要

 名古屋大学医学部附属病院 消化器・腫瘍外科の田中晴祥 助教、富山大学医学薬学教育部生命・臨床医学専攻の酒井彩乃 大学院生、名古屋医療センター 外科の末永雅也 医長、富山大学学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科の藤井努 教授、名古屋大学大学院医学系研究科 腫瘍外科学の江畑智希 教授、名古屋医療センターの小寺泰弘 院長(研究当時 名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学 教授)らの研究グループは、進行すい臓がんに適応しうる新たな予後指標モデルを開発しました。
 すい臓がんは進行した状態で診断されることが多く、生存率の低いがんのひとつです。この治療には、抗がん剤や放射線治療に加え、適切な時期に手術すること(集学的治療)が重要です。適切な手術のタイミングや手術の可否の判断には、CA19-9*1やDUPAN-2*2といった腫瘍マーカーの推移が参考になりますが、個人差があるため評価が困難になることが課題となっていました。
 今回の研究では、FUT2遺伝子*3とFUT3遺伝子*4のタイプと、腫瘍マーカーの値との関係に着目し、術前の抗がん剤や放射線治療による変化を遺伝子タイプ別に解析しました。すると、CA19-9とDUPAN-2は、病気の重さ(切除可能性分類*5)よりも、FUT2/3のタイプごとの腫瘍マーカー差の方が明瞭でした。
 そこで、診断時には切除できないと診断されたものの、治療によって手術が可能となった患者さん向けに、CA19-9・DUPAN-2・FUT2/3 タイプを組み合わせた新たな予後指標(遺伝子腫瘍マーカーモデル)を開発しました。一般的なマーカーの正常値だけに頼った指標と比較して、本モデルの生存率の予測性能は明らかに優れており、より正確な生存率を予測し得たことを発見しました。
 本研究により、今後はこの遺伝子腫瘍マーカーモデルに沿って、手術をするかを判断することで、メリットの少ない手術を回避できることや、「手術できない」と見過ごされてきた患者さんの一部に手術を提案できることが期待されます。
 本研究成果は、2025年4月29日付(日本時間4月29日9時)英国科学誌『British Journal of Surgery』に掲載されます。

用語解説

*1)CA19-9
Carbohydrate Antigen(糖鎖抗原)19-9の略称。がんの病勢を反映する代表的な腫瘍マーカーのひとつ。ヒト大腸がん細胞株を基に作られたNS19-9抗体を用いて測定する。
*2)DUPAN-2
DUPAN-2:CA19-9とならび、代表的な腫瘍マーカーのひとつ。ヒトすい臓がんの細胞株を基に作られたDUPAN-2抗体を用いて測定する。
*3)FUT2遺伝子
フコース転換酵素の遺伝子のひとつ。血液型抗原のひとつであるルイス抗原の体液への分泌を制御する。
*4)FUT3遺伝子
フコース転換酵素の遺伝子のひとつ。血液型のひとつであるルイス血液型を決定する。
*5)切除可能性分類
がんに広く用いられているステージ分類に加えて、初回診断時に外科的に治癒目的切除の困難さについて画像をもとに診断します。大きく、Resectable (R) 切除可能、Borderline Resectable (BR) 切除可能境界、Unresectable (UR) に分類され、これに基づいて治療方針が決定されます。

研究内容の詳細

腫瘍マーカー遺伝子モデルの開発~進行すい臓がん患者に適切な手術の指標を~[PDF, 320KB]

論文情報

論文名

FUT2 and FUT3 specific normalization of DUPAN-2 and Carbohydrate Antigen 19-9 in preoperative therapy for pancreatic cancer: a multi-center retrospective study (GEMINI-PC-01)

著者

Haruyoshi Tanaka 1,2,†, Ayano Sakai 2,†, Masaya Suenaga 3, Masamichi Hayashi 1, Tomohisa Otsu 1, Nobuhiko Nakagawa 1, Keisuke Kurimoto 1, Mina Fukasawa 2, Kazuto Shibuya 2, Nobuyuki Watanabe 1, Masaki Sunagawa 1, Junpei Yamaguchi 1, Takashi Mizuno 1, Toshio Kokuryo 1, Hideki Takami 1, Tomoki Ebata 1, Tsutomu Fujii 2, Yasuhiro Kodera 1
1) Department of Surgery, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
2) Department of Surgery and Science, Faculty of Medicine, Academic Assembly, University of Toyama, Toyama, Japan
3) Department of Surgery, NHO Nagoya Medical Center, Nagoya, Japan
† Contributed equally to this work

掲載誌

British Journal of Surgery

DOI

https://doi.org/10.1093/bjs/znaf049

お問い合わせ

富山大学学術研究部医学系
教授 藤井 努

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