経鼻免疫により鼻粘膜に誘導される分泌型IgA抗体がウイルス感染を抑制する機構をモノクローナル抗体レベルで解明
本研究のポイント
・経鼻免疫したマウスの鼻腔に誘導された抗体産生細胞からモノクローナル抗体※1)を大規模に単離し、それぞれの特性を解析することに成功しました。
・経鼻免疫によって誘導された抗体産生細胞は、鼻粘膜組織のみならず体の他のリンパ組織へも移行し、各組織で抗体を生産することが分かりました。
・取得されたIgA抗体※2)クローンの70%は、単量体では新型コロナウイルスに対する中和活性を示しませんでした。しかしそれらを2量体や4量体からなる分泌型IgA抗体に変えると中和活性を示すことが判明しました。
・ウイルス中和活性を持つ分泌型IgA抗体を鼻粘膜に誘導できる経鼻ワクチン※3)の有効性が明らかになりました。
研究概要
鼻腔に病原体由来の抗原を摂取する経鼻ワクチンは、鼻粘膜上に分泌型IgA抗体を誘導すると共に、血液中にも抗体を誘導できることから、感染防御と重症化予防の両者を兼ね備えた次世代ワクチンとしてその効果が期待されています。しかし、なぜ経鼻ワクチン接種により鼻腔以外の組織で抗体が産生されるのかについては不明でした。我々のチームは、新型コロナウイルス由来のタンパク質を経鼻免疫したマウスから抗原特異的モノクローナル抗体を大規模に取得し、得られた各抗体クローンの遺伝子配列を解析しました。その結果、鼻粘膜で抗原刺激を受けた抗体産生細胞が、鼻粘膜で分泌型IgA抗体を産生するのみならず、その一部が全身のリンパ組織に移行して単量体抗体の産生にも関与することを明らかにしました。さらに、単量体IgAモノクローナル抗体の約70%は中和活性を示さなかったが、これらを4〜8箇所の抗原結合部位を持つ分泌型IgA抗体に変えると強い中和活性を示すようになることを発見しました。本研究成果は、経鼻ワクチン特有の抗体誘導機構の一端を明らかにするものであり、感染防御能力と重症化抑制能力を兼ね備えた高性能な経鼻ワクチン開発に貢献すると期待されます。
本研究成果は、「elife(掲載誌)」に 2025 年 5 月 9 日(金)(日本時間)に掲載されました。
用語解説
※1)モノクローナル抗体
単一の抗体産生細胞に由来する細胞集団(クローン)から作られる抗体。
※2)IgA抗体
免疫グロブリンの主要な5つのクラスの中の1つ。主に粘膜の表面に分泌型として分泌される。分泌型IgA抗体は多量体として存在するため4〜8個の抗原結合部位を持つ。血清中では2個の抗原結合部位を持つ単量体IgAとして存在する。
※3)経鼻ワクチン
鼻粘膜に抗原を投与する新しいタイプのワクチン。呼吸器感染症の予防において、注射型ワクチンでは得にくいとされる感染予防効果が期待できる。
研究内容の詳細
経鼻免疫により鼻粘膜に誘導される分泌型IgA抗体がウイルス感染を抑制する機構をモノクローナル抗体レベルで解明[PDF, 4MB]
論文情報
論文名
Comprehensive analysis of nasal IgA antibodies induced by intranasal administration of the SARS-CoV-2 spike protein
著者
和氣健太郎1, 谷英樹2, 河原永悟3,4, 佐賀由美子2, 嶌田嵩久2, 山崎笑子2, 小池誠一5, 森永芳智3, 磯部正治3, 黒澤信幸3,5
1 富山大学大学院理工学教育部
2 富山県衛生研究所 ウイルス部
3 富山大学先端抗体医薬開発センター
4 富山大学学術研究部医学系
5 富山大学学術研究部工学系
掲載誌
elife
DOI
https://doi.org/10.7554/eLife.88387.3
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富山大学学術研究部工学系
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