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人工股関節手術に新たな指針 ~外閉鎖筋の温存で脱臼リスク軽減の可能性~

本研究のポイント

・人工股関節置換術は、股関節疾患に対して有用な術式であるが、術後合併症として脱臼※1が問題となっていた。
・本研究では、人工股関節が脱臼しやすい深屈曲位(75°以上)において、外閉鎖筋が強い脱臼抵抗力を発揮することを発見した。
・人工股関節置換術後の脱臼リスク低減のためには、外閉鎖筋の温存が重要であることが示された。
・外閉鎖筋の解剖学的機能に基づいた術式の見直しにより、術後成績の改善が期待される。

研究概要

 富山大学学術研究部医学系 整形外科・運動器病学講座 伊藤芳章助教および川口善治教授らの研究グループは、北海道千歳リハビリテーション大学健康科学科 鈴木大輔教授、札幌医科大学生体工学・運動器治療開発講座 名越智教授(当時)らとの共同研究によって、人工股関節置換術後に問題となる後方脱臼の予防に最も効果的に寄与する外旋筋を特定することを目的に、新鮮凍結遺体を用いたトルク測定実験を行い、生体力学的な知見に基づく人工股関節置換術時の選択的筋温存の基準を示しました。
 これまでの研究では、短外旋筋群※2全体の機能的役割については明らかにされていましたが、脱臼を予防する外旋作用の大きさの観点で各筋の貢献度を定量的に比較した研究はありませんでした。本研究では、股関節の屈曲角度を変化させながら、各筋の外旋トルク※3を筋走行と筋力の要素を再現して三次元的に計測することにより、脱臼しやすい深屈曲位(75°~105°)で外閉鎖筋が最大の外旋トルクを発揮することを世界で初めて示しました。
 この結果は、外閉鎖筋の温存が人工股関節置換術後の脱臼予防に極めて有効である可能性を示唆しており、今後の術式設計における重要な知見となることが期待されます。
 本研究成果は、Orthopaedic Research Society (ORS)機関紙「Journal of Orthopaedic Research」に2025年6月16日に掲載されました。

用語解説

※1)脱臼(だっきゅう)
関節の骨が本来の位置から外れてしまう状態。人工股関節では、手術後に起こることがある重大な合併症の一つです。

※2)短外旋筋群(たんがいせんきんぐん)
股関節後方の奥深くにある小さな筋肉の集まりで、太ももを外側に回す動きを担います。外閉鎖筋は短外旋筋群の中の一つです。関節の安定にも重要な役割を果たします。

※3)外旋トルク(がいせんトルク)
脚を外側にねじる(外旋する)ときに筋肉が発揮する力の強さ。股関節の安定性を保つために必要な力です。

研究内容の詳細

人工股関節手術に新たな指針 ~外閉鎖筋の温存で脱臼リスク軽減の可能性~[PDF, 607KB]

論文情報

論文名

Comparison of External Rotation Torque of Short External Rotator Muscles in Hip Flexion Position

著者

Yoshiaki Ito, Daisuke Suzuki, Fumiya Kizawa, Arata Kanaizumi, Toshihito Hiraiwa, Takashi Tamura, Yoshiharu Kawaguchi, Satoshi Nagoya.(責任著者)

掲載誌

Journal of Orthopaedic Research

DOI

http://doi.org/10.1002/jor.70005

お問い合わせ

富山大学学術研究部医学系
助教 伊藤 芳章

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