TOPICS

難病「アミロイドーシス」に“光”を。――アミロイドの無毒化による治療効果を初めて実証――

ポイント

・世界的な高齢化を背景に、異常タンパク質の凝集・蓄積に起因するアミロイド疾患は近年、診断例が急増している。特に、トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)は、現状で臓器移植以外に根治療法はなく、多くの患者は体内に蓄積し続ける毒性のアミロイドを無毒化することができないまま死に至るという悲惨な現状がある。
・この現状を一刻も早く改善すべく、本研究では光によって活性化され、空気中の酸素からアミロイドに対して親水性の酸素原子を化学反応により選択的に導入(光酸素化)することができる小さな触媒分子を開発し、アミロイドの無毒化を達成した。
・高い反応性と選択性を併せ持つこの触媒は、患者由来のアミロイドに対しても光酸素化を実現し、さらに世界唯一の本疾患モデル動物である線虫の体内でも反応を進行させて、初めて治療効果を得ることに成功した。

概要

 東京大学 大学院薬学系研究科 有機合成化学教室 金井 求 教授と山根 三奈 特任助教らの研究グループは、同・機能病態教室 富田 泰輔 教授、堀 由起子 准教授、熊本大学 発生医学研究所 山中 邦俊 准教授、筑波大学 医学医療系/トランスボーダー医学研究センター 広川 貴次 教授、京都大学 化学研究所 梶 弘典 教授、和歌山県立医科大学 相馬 洋平 教授、杉村会 杉村病院アミロイドーシス診療研究サポートセンター 安東 由喜雄 総長、熊本大学 大学院生命科学研究部 植田 光晴 教授、富山大学 学術研究部 薬学・和漢系(薬学)構造生物学研究室 水口 峰之 教授の研究グループと共同で、難病「トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)」に対し、新たな治療戦略を打ち出しました。
 本技術の鍵となった触媒は、光と空気中の酸素を使った化学反応(光酸素化)により、疾患モデル動物個体内で毒性のアミロイドを無毒化することができ、治療効果を観察することに初めて成功しました。
 従来の治療法は、早期患者の症状を和らげ進行を遅らせる、または健常者の発病予防に対してある程度の効果が見込めていました。しかしながら、ある一定のステージまで病気が進行した患者に対しては、体内に蓄積したアミロイドを無毒化・分解する効能はありませんでした。一方、本研究の特色である「アミロイド選択的な光酸素化」は、アミロイドの形成阻害に加え、不可逆的に沈着したアミロイドを化学反応により選択的に無毒化することで、動物個体で病態改善を実現可能とする小分子触媒の世界初の例となります。これまでに金井教授らは、アルツハイマー型認知症の原因物質(アミロイドβやタウ)を対象として種々の光酸素化触媒を開発してきましたが、臨床応用には至っていませんでした。本研究は、課題としていた治療効果の概念実証獲得を克服し、触媒的光酸素化法を臨床適用に繋げるマイルストーンを達成したと共に、これまで治療法が無かった患者にも有効な特効薬の開発につながることが期待されます。

研究内容の詳細

難病「アミロイドーシス」に“光”を。――アミロイドの無毒化による治療効果を初めて実証――[PDF, 1MB]

論文情報

論文名

Catalytic Photooxygenation Demonstrates Therapeutic Efficacy in Transthyretin Amyloidosis

著者

Mina Yamane, Hiroki Umeda, Moe Toyobe, Atsushi Iwai, Kuraudo Ishihara, Genki Kudo, Harunobu Mitsunuma, Yukiko Hori, Taisuke Tomita, Mineyuki Mizuguchi, Masamitsu Okada, Mitsuharu Ueda, Yukio Ando, Shigehiro A. Kawashima, Youhei Sohma, Hironori Kaji, Takatsugu Hirokawa, Kunitoshi Yamanaka,* Motomu Kanai*

掲載誌

Journal of the American Chemical Society

DOI

https://doi.org/10.1021/jacs.5c06205

お問い合わせ

富山大学学術研究部薬学系
教授 水口 峰之

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