将来気候に比較される鮮新世温暖期における西南極氷床の融解状況・規模を解明
本研究のポイント
- 国際深海科学掘削計画(IODP) ※1）379次研究航海※2）で採取された西南極アムンゼン海の海底堆積物試料の同位体比分析と氷床数値モデルシミュレーションから，将来気候と比較される鮮新世（533–258万年前）に西南極氷床※3）の大規模融解（3メートルの海面上昇に相当)があったことを明らかにしました。
- 西南極氷床は，330–460万年前の間に14回にわたり融解し，このうちの少なくとも5回は全融解していました。本研究結果は，西南極氷床の大規模融解が，将来の温暖化環境下でも現実的に起こり得ることを示しています。
概要
富山大学学術研究部理学系の堀川恵司教授，当時富山大学理工学教育部に所属していた野田昌裕大学院生，藤本美柚大学院生，高知大学海洋コア国際研究所の岩井雅夫教授，名古屋大学環境学研究科の淺原良浩准教授，英国南極研究所のClaus-Dieter Hillenbrand博士，コロラドカレッジのChristine S. Siddoway教授，テキサス大学オースティン校のAnna Ruth Halberstadt助教らを中心とする研究グループは，国際深海科学掘削計画(IODP)379次研究航海（2019年1–3月実施）で採取された西南極アムンゼン海の海底堆積物試料の同位体比分析と氷床数値モデルシミュレーションから，鮮新世温暖期に西南極氷床が内陸まで大きく融解する全融解（3メートルの海面上昇に相当）を起こしていたことを明らかにしました。
300–500万年前の鮮新世温暖期は，全球の平均気温が現在より3–4℃高く，将来の温暖化の類型として注目されています。しかし，当時の南極氷床の融解規模に関する決定的な地質学的証拠はこれまで不足していました。本研究では，西南極アムンゼン域の堆積物試料を用いた同位体比分析を行い，当時，西南極氷床が内陸深くまで大きく後退していたことを示す明確な地球化学的証拠を得ました。本研究結果は，現在進行している温暖化によって，西南極氷床が大規模に融解し，将来的に数メートル規模の海面上昇が現実的なリスクとして起こり得ることを示しています。
本研究成果は，米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」誌（PNAS，米国科学アカデミー紀要）に 2025年 12月 23日（火）（日本時間）に掲載されました。
用語解説
※1）国際深海科学掘削計画（IODP: International Ocean Discovery Program）
平成25年（2013年）10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本（地球深部探査船「ちきゅう」），アメリカ（ジョイデス・レゾリューション号），ヨーロッパ（特定任務掘削船）がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより，地球環境変動，地球内部構造，地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を推進する。
※2）国際深海科学掘削計画（IODP）第379次研究航海
現在，急速な氷床量の減少が見られる西南極氷床アムンゼン域の大陸棚や大陸棚近傍海洋底を掘削し，採取された堆積物コア試料の分析から，過去の温暖時期における気候・海洋状態と西南極氷床の消長との関連を解明することを目的とした研究航海。
詳細は下記リンク（外部サイト）を参照。
国際深海科学掘削計画（IODP）第379次研究航海の開始について～アムンゼン海の氷床縁辺掘削で探る西南極氷床ダイナミクス～
※3）西南極氷床
西南極氷床は，南極横断山脈を境として西半球側（西経0–180度）に位置する氷床を指す。この氷床の大部分は，その基盤が海面下にあるため，氷床が直接海水と触れており，海水温が上昇すると氷床の底面から融解が進みやすくなる。西南極氷床のアムンゼン域では，このような比較的暖かい海水の影響を受け，現在急速に融解が進行している。
研究内容の詳細
将来気候に比較される鮮新世温暖期における西南極氷床の融解状況・規模を解明[PDF, 394KB]
論文情報
論文名
Repeated major inland retreat of Thwaites and Pine Island glaciers (West Antarctica) during the Pliocene
著者
Keiji Horikawa*, Masao Iwai, Claus-Dieter Hillenbrand, Christine S. Siddoway, Anna Ruth Halberstadt, Ellen A. Cowan, Michelle L. Penkrot, Karsten Gohl, Julia S. Wellner, Yoshihiro Asahara, Ki-Cheol Shin, Masahiro Noda, Miyu Fujimoto, and Expedition 379 Science Party
*筆頭・責任著者
掲載誌
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
DOI
https://doi.org/10.1073/pnas.2508341122
お問い合わせ
富山大学 学術研究部理学系
教授 堀川 恵司（ホリカワ ケイジ）
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