生理的な痛覚を保ちながら病的な痛みのみを抑制する Nav1.7抗体を開発
ポイント
- Nav1.7を標的とするヒト化抗体の開発に成功しました。
- 神経障害性疼痛モデル(部分坐骨神経結紮:PSNL※1)ラットにおいて、全身への単回投与により長時間の鎮痛効果が見られました。
- PSNLラットでは、偽処置ラットに比べて脊髄※2後角ニューロンの機械刺激誘発発火や自発発火が増大していましたが、抗体投与によりこれらの異常な神経活動が有意に抑制されました。
- 全身投与による生理的な痛覚・運動機能への影響はほとんど見られませんでした。
- 以上から、抗体医薬の特性(高選択性・長い半減期・低毒性)を活かし、既存薬では達成が困難であった持続的かつ安全な鎮痛を実現できる可能性が示されました。

概要
富山大学学術研究部薬学・和漢系 応用薬理学研究室の歌大介准教授、塩野義製薬株式会社の米田聡介研究員らの研究グループは、痛みの伝達に重要なNav1.7※3を標的とするヒト化抗体を開発し、神経障害性疼痛モデル(PSNL)ラットで評価しました。抗体を全身へ単回投与すると最大96時間以上の持続的な鎮痛効果が得られ、電気生理学※4的解析法を用いた脊髄後角ニューロンの異常な発火活動も有意に抑制されました。さらに、生理的な痛覚や運動機能への影響はほとんど認められませんでした。これらの結果は、抗体医薬による新しい慢性疼痛治療の可能性を示すものです。
本研究成果は、国際学術誌「Pharmaceutics」に 2026 年 6月 21 日(日本時間)に掲載されました。
用語解説
※1)PSNL(部分坐骨神経結紮)
坐骨神経の一部を結紮して神経損傷を生じさせ、神経障害性疼痛(機械的アロディニアなど)を再現する動物モデルです。
※2)脊髄
末梢(皮膚、筋、骨、各種臓器、粘膜など)で受け取った情報(触覚、圧覚、痛覚、
温度覚)が最初に伝達される中枢領域です。感覚や運動の情報を伝達する重要な経路であり、痛み信号の中継点でもあります。
※3)Nav1.7
Nav1.7は、痛み刺激を受けたときに神経が電気信号を発生させる際に働くナトリウムチャネルです。痛みの強さを左右する重要な分子で、慢性疼痛治療の有望な標的とされています。
※4)電気生理学的
ニューロンの活動を電気的に測定する方法です。本研究では、ニューロンの近くで生じる微弱な電気的変化を記録しています。
研究内容の詳細
生理的な痛覚を保ちながら病的な痛みのみを抑制する Nav1.7抗体を開発[PDF, 281KB]
論文情報
論文名
A Systemically Administered Humanized Anti-Nav1.7 Antibody with Long-Lasting Analgesic Activity and Preserved Physiological Nociception.
著者
Sosuke Yoneda*, Daisuke Uta*,†, Kana Yasufuku, Takuya Yamane, Saho Yoshioka, Keiko Takasu, Takaya Izumi, Sayaka Fujita, Daiki Nakamori, Shiori Kawasaki, Tatsuya Takahashi, Mai Yoshikawa, Koichi Ogawa, Erika Kasai.
* Contributed equally to this work, †Corresponding author
掲載誌
Pharmaceutics
DOI
https://doi.org/10.3390/pharmaceutics18060757
お問い合わせ
富山大学学術研究部薬学・和漢系 応用薬理学研究室
准教授 歌 大介
- TEL:076-434-7511
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