偏西風の蛇行が中高緯度海洋との連動によって増幅される仕組みを解明 季節的な異常天候の予測精度向上に繋がると期待
ポイント
- テレコネクションパターンは同じ地域で繰り返し現れる⼤洋スケールの⼤気循環変動パターンで、偏⻄⾵の蛇⾏や強化をもたらすことから、その地域での異常天候の発現と密接に関係しています。エルニーニョ現象などの熱帯海洋の変動がテレコネクションパターンの形成や持続に影響を与えることが知られていましたが、中⾼緯度海洋の役割は未解明でした。
- 本研究では、中⾼緯度海洋の影響を検出するために⼤規模な数値シミュレーションを実施し、中⾼緯度域における⼤気と海洋の双⽅向作⽤がテレコネクションパターンの変動(すなわち偏⻄⾵の蛇⾏や強化の振れ幅)を強化していることを発⾒し、その仕組みを解明しました。
- 本研究の成果は、1か⽉予報などの⻑期予報の精度向上や、将来の気候変動予測の不確実性低減に繋がることが期待されます。
概要
暖冬や寒冬などの季節スケールの異常天候は偏⻄⾵の蛇⾏によって⽣じることが多く、偏⻄⾵の蛇⾏をもたらすテレコネクションパターン(※1)の形成・持続メカニズムを理解することは、異常天候の予測や防災の観点からも重要です。エルニーニョ現象(※2)に代表される熱帯海洋の海⾯⽔温変動がテレコネクションパターンの形成や持続に⼤きな影響を与えることが知られています。⼀⽅で、テレコネクションパターンは主に⾵の強弱を通して中⾼緯度海洋の海⾯⽔温を変化させますが、その⽔温の変化が上空の偏⻄⾵の蛇⾏にどのような影響を与えるのかこれまで明らかではありませんでした。
九州⼤学応⽤⼒学研究所の森正⼈ 助教、時⻑宏樹 教授、東京⼤学先端科学技術研究センターの⼩坂優 准教授、中村尚 教授、富⼭⼤学学術研究部都市デザイン学系の⽥⼝⽂明 教授および海洋研究開発機構の建部洋晶 グループリーダーらの研究グループは、最新の⼤気海洋結合モデル(※3)ならびに⼤気モデル(※4)を⽤いて 4,100年分にも及ぶ⼤規模な全球気候の数値シミュレーション実験を実施し、中⾼緯度域の⼤気と海洋が連動して双⽅向に影響を及ぼし合うこと(⼤気海洋結合と呼ぶ)が、北半球冬季(12-2⽉)の主要なテレコネクションパターンの変動を選択的に増幅していることを明らかにしました。具体的には、太平洋・北⽶パターン、北⼤⻄洋振動、北極暖気・中緯度寒気パターンそれぞれの変動のうち約 13%、11%、10%が⼤気海洋結合によって説明されることがわかりました。
本研究成果は、⼤気海洋結合の影響が考慮されていない 1か⽉予報などの⻑期予報の精度向上や、将来の気候変動予測の不確実性低減に繋がることが期待されます。
本研究成果は、Nature Publishing Group の国際科学誌「Communications Earth & Environment」
に 2024年3⽉15⽇(⾦)午後7時(⽇本時間)に掲載されます。
用語解説
(※1)テレコネクションパターン
“テレコネクション(遠隔相関、遠隔結合)”とは何千キロ、何万キロも離れた別々の場所で観測された気圧などの気象データが、互いに相関をもって変動する現象のことです。ある基準地点とその他の多くの地点との間の相関係数(連動度合い)を地図上にプロットすると特徴的なパターンが得られ、テレコネクションパターンと呼ばれます(図 2)。地域毎に現れ易いパターンが存在し、それぞれ名前が付けられています。図2は Pacific/North American (PNA) pattern(太平洋・北⽶パターン)に対応します。
(※2)エルニーニョ現象
エルニーニョ現象とは、太平洋⾚道域の中部から南⽶沿岸にかけて、海⾯⽔温が平年よりも⾼い状態が数か⽉以上続く現象です。テレコネクションパターンを強制することで、遠く離れた中緯度域へ遠隔的に影響を及ぼします。
(※3)⼤気海洋結合モデル
⼤気海洋結合モデルとは、⼤気と海洋の流れや温度などをシミュレーションするための数値プログラムのことです。気候モデルとも呼ばれ、地球温暖化予測に⽤いられています。本研究では、東京⼤学⼤気海洋研究所、国⽴環境研究所、海洋研究開発機構で共同開発されている最新の全球気候モデル「MIROC6」を⽤いました。
(※4)⼤気モデル(⼤気⼤循環モデル)
⼤気モデルとは、⼤気の流れや温度などをシミュレーションするための数値プログラムのことです。海洋の⽔温や流れは計算しないため、海⾯⽔温と海氷のデータを外から⼊⼒する必要があります。本研究では、「MIROC6」の⼤気に関する部分を⽤い、結合モデルで計算された海⾯⽔温と海氷のデータが⼊⼒されました。
研究内容の詳細
偏西風の蛇行が中高緯度海洋との連動によって増幅される仕組みを解明 季節的な異常天候の予測精度向上に繋がると期待[PDF, 1MB]
論文情報
論文名
Northern Hemisphere winter atmospheric teleconnections are intensified by extratropical ocean-atmosphere coupling
著者
Masato Mori, Yu Kosaka, Bunmei Taguchi, Hiroki Tokinaga, Hiroaki Tatebe, and Hisashi Nakamura
掲載誌
Communications Earth & Environment
DOI
https://doi.org/10.1038/s43247-024-01282-1