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エストロゲンの免疫を介した妊娠糖尿病防御機構の解明

近年増加している妊娠糖尿病は、胎児の異常だけでなく将来の肥満、ならびに母親の将来における糖尿病リスクに関連することから、その病態解明と効果的な対策が求められています。国立大学法人富山大学学術研究部 薬学・和漢系 笹岡利安教授、和田努講師、医学系 田中智子診療助手らは、女性ホルモンのエストロゲン(注1)が妊娠中にTリンパ球の免疫機能を調節することで、インスリン分泌を支持して妊娠糖尿病から防御することを発見しました。

エストロゲンは妊娠の維持に不可欠であり、その作用は妊娠にかかわる免疫機能の調節に重要です。また妊娠糖尿病や習慣性流産では、炎症を促進するIL17産生型ヘルパーT細胞(Th17)の増加や炎症を抑制する制御性T細胞(Treg)の減少などの免疫異常を生じ、病態悪化に寄与すると考えられています。当研究グループはTリンパ球だけでエストロゲン受容体を欠損するマウスを妊娠させ、エストロゲンの妊娠糖尿病での働きを探究しました。その結果、本遺伝子改変マウスは膵臓からのインスリン分泌低下に伴い血糖値の悪化を示しました。また、炎症性サイトカインIL17は単離ランゲルハンス島からのインスリン分泌を抑制しました。さらに本マウスの内臓脂肪ではTh17の増加を伴う慢性炎症が亢進し、肝臓では妊娠糖尿病患者と類似したヘパトカイン(注2)産生異常を生じました。本マウスは子宮でのTreg数の減少を示しましたが、妊娠率や流産率には影響しませんでした。

本研究により、妊娠中に増加するエストロゲンはTリンパ球に作用することで膵臓、内臓脂肪、肝臓での免疫学的な環境を整え、母体の糖代謝機能を維持することが示唆されました。IL17は膵臓のインスリン分泌を抑制することから、妊娠糖尿病で増加するTh17およびIL17が、インスリン分泌低下を伴う妊娠糖尿病に対する新たな治療標的であることを突き止めました。

今回の研究成果は、科学専門誌Diabetologia(ダイアベトロジア)電子版において2021年3月31日に公開されました。

(注1)エストロゲン

代表的な女性ホルモンの1つ。性周期、妊娠の維持だけでなく、女性の多くの生理作用に重要な役割を果たす。また様々な免疫細胞への作用も知られている。

(注2)ヘパトカイン

肝臓から分泌されるホルモンの総称で、糖代謝を含む様々な機能に影響する。妊娠糖尿病ではインスリンの作用を阻害するFetuin A、代謝を改善するFGF21が増加することが知られるが、Tリンパ球エストロゲン受容体欠損妊娠糖尿病マウスでもこれらの増加を認めた。

プレスリリース [PDF, 296KB]