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内科医の年間退院患者数、研修医の給料、マッチング率の地域間格差:医学生のオープンデータを用いた実習成果が国際誌に掲載

富山大学地域連携推進機構地域医療保健支援部門の山田正明副部門長と富山大学卒の一木優太郎研修医(名古屋大学附属病院)らは、 オープンデータを用いた社会医学実習から全国の内科医師の年間退院患者数、研修医の給料とマッチング率について分析し、地域間格差に関して新たな知見を得ましたので公表します。

富山大学では、医学科4年生を対象として社会医学実習が行われ、毎年様々な社会医学的課題を教員の指導の下で調査・分析しています。今回の分析は平成29年度の実習内で行われたもので、日本内科学会が公表している病院毎のオープンデータ、各病院がホームページで公表する初期研修医の基本給等のデータを利用しました。同学会の認定教育施設である全国423病院(大学病院を除く)を対象とし、医師の1人当たりの年間退院患者数、初期研修医の基本給、中間マッチング率の3項目を調査しました。それらの指標が、病院が立地する市町村の人口規模によって異なるかを評価しました。人口規模は8区分(10万人未満、20万人未満、30万人未満、40万人未満、60万人未満、100万人未満、200万人未満、200万人以上)としました。東京23区は200万人以上に分類しました。

医師1人当たりの年間退院患者数は、各病院において内科の年間退院患者の総数を内科医数(常勤内科医数と内科専攻の後期研修医数)で除した値で評価しました。その結果、全国平均では110.3名でしたが、病院が立地する人口規模別で有意な差が見られました。人口200万以上と東京23区内の病院では、1人当たりの年間退院患者数は88.4名であり、全国平均に比べて21.9名、人口30万人未満の市町村と比べて37.5名も年間の患者担当数が少ないことがわかりました。(図1)各病院の平均退院患者数、常勤内科医数、内科専攻の後期研修医数を人口規模別で比較したところ、平均退院患者数は年間5000人程度で人口規模による差は見られませんでしたが、常勤内科医数と後期研修医数は人口200万以上と東京23区内の病院では多く、常勤内科医数は全国平均(37.7名)より9.7名、と後期研修医数は全国平均(10.2名)より5.6名、それぞれ多いことがわかりました。都市部の病院では他の地区の病院に比べて内科勤務医数が多く、そのため医師1人当たりの年間退院患者数が少ないといえます。

初期研修医の基本給は345病院が公表しており、全国平均は35万1199.3円でした。市町村の人口規模別の分析では、10万人未満の市町村で38万2083.8円と最高値を示す一方、200万人以上と 東京23区内の病院では30万5635.1円と最低値でした。月給と人口には反比例の関係が見られました。(図2)

最後に病院の人気を示す中間マッチング率を調査しました。これは各病院に初期研修医として就職を希望する志願者の総数を、病院が定める定員で除したものです。全国平均は101.9%でしたが、200万人未満の都市の病院では114.0%、200万以上 と東京23区内の病院では142.7%と非常に高く、より少ない人口規模の市町村では100%未満がほとんどでした。(図3)

これらの結果から、大都市の病院では1人当たりの年間退院患者数が少なく、基本給も少なく、そして就職希望者が多いことがわかりました。医師の労働量は提供する医療レベル、疾患の種類にも影響されるため、1人当たりの年間退院患者数のみで単純に都市部と非都市部間の労働量の比較はできませんが、医師数の少ない非都市部の病院では、新型コロナ感染症などの対応は都市部の病院に比べてより困難だと予想されます。非都市部の勤務医数の増加、偏在の解消には、国レベルでの対策が必要であると思われます。

研究の詳細は、2021年7月20日に国際誌Environmental Health and Preventive Medicineに掲載されました。

プレスリリース [PDF, 431KB]