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日本人における乳児血管腫の有病率とリスク因子に関する検討

富山大学学術研究部医学系皮膚科学講座の三澤恵講師らのグループは、日本における乳児血管腫の有病率が0.72%と他国に比べて低く、花粉症・アレルギー性結膜炎・女の子・生殖補助医療の実施・在胎週数が発症と関連している要因であるということを、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」で明らかにしました。

この研究成果はSociety for Investigative Dermatologyが発行する皮膚科学の専門誌「Journal of Investigative Dermatology」に2021年6月8日にオンライン掲載されました。

概要

 乳児血管腫は、いちご状血管腫とも呼ばれる乳児期に最も多くみられる良性の血管腫瘍の一つですが、我が国において、その有病率とリスク要因に関する全国規模の調査が行われたことはありませんでした。
 そこで、富山大学学術研究部医学系皮膚科学講座の三澤恵講師らのグループは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いて、日本人における乳児血管腫の有病率と発症の要因について調査しました。
 その結果、産後1年目に実施した質問票調査より、日本の乳児血管腫の有病率は、他の国に比べ低いことがわかりました。また、乳児血管腫の発症は、花粉症・アレルギー性結膜炎・女の子・生殖補助医療の実施・在胎週数に関連が見られました。
 今回の研究結果は、約85,000人を対象とした精度の高い結果です。

研究の背景

 乳児血管腫は、いちご状血管腫とも呼ばれる乳児期に最も多くみられる良性の血管腫瘍の一つで、海外の報告では乳児の約4.5%にみられるとされています。赤色や紫系の色調で、通常、生後2週間ほどであらわれ、その後時間経過とともに自然と縮小していく特徴を持ちます。これまでの研究で、人種・性別・出生体重など、発症に関係する様々な要因が指摘されてきましたが、乳児血管腫に関する全国規模の調査は行われたことはありませんでした。
 そこで今回、エコチル調査のデータを用いて、日本における乳児血管腫の有病率と発症の要因について調査することとなりました。

研究の内容・成果

 本研究では、1歳時に子どもの保護者に行った質問票調査から、85,244人分のデータを用いて分析しました。
 その結果、調査対象者85,244人のうち613人が該当し、本研究で示された1歳時の乳児血管腫有病率は0.72%でした。これは、他国の有病率と比べ低い結果です。
 また、これまでの研究で示唆されてきた発症要因の中で(下図①〜⑧)、①子どもの性別、②妊娠方法、③在胎週数には関連が見られましたが、④出産歴、⑤⑥妊娠・産科合併症、⑦母体の妊娠中の年齢では、はっきりとした関連性は見られませんでした。また、⑧出生体重では有意な関連はありませんでしたが、在胎週数が1週間増える毎に乳児血管腫の有病率が約9%低くなることが分かりました。乳児血管腫の発症には、新しい血管が多く作られてしまう原因となる低酸素ストレスや胎児期の血中レニン濃度の上昇が関与すると考えられています。女の子であること、生殖補助医療の実施、在胎週数の短さと乳児血管腫発症の関連が、胎児期の低酸素ストレスや高レニン状態により引き起こされるかどうかについて、さらなる研究が必要です。

乳児血管腫の発症と関連の深い要因

 また、興味深い結果として、母親の⑨花粉症と⑩アレルギー性結膜炎の罹患率と、生まれた子どもの乳児血管腫発症との関連が認められました。母親の花粉症・アレルギー性結膜炎の罹患率と生まれた子どもの乳児血管腫発症の関連は、低酸素ストレスでは説明できません。また、妊婦の花粉症やアレルギー性結膜炎の治療薬の使用と、生まれた子どもの乳児血管腫の発症に関連する報告はありません。

今後の展開

 今回の調査結果は保護者の自己申告により得られたものであり、単に「血管腫」としている回答(約0.3%)を除外していること、乳児血管腫の数と大きさに関するデータを収集していないこと、母親の花粉症・アレルギー性結膜炎の重症度や治療に関するデータを収集していないことなど、不十分な点もあります。母親の花粉症とアレルギー性結膜炎の罹患率との関連に関しては、さらに検証していく必要があります。
 今回、全国規模の調査が行われたことで、日本における乳児血管腫の有病率とその要因について調査・検討することができました。本研究における乳児血管腫の有病率は0.72%であり、過去の報告の0.78%(Hidano A,et al.: Br J Dermatol. 1972;87:138.)と同様に、他国に比べて低いことや、母親の花粉症とアレルギー性結膜炎・女の子・生殖補助医療の実施・在胎週数が発症と関連していることが分かりました。特に、母親の花粉症およびアレルギー性結膜炎と生まれた子どもの乳児血管腫発症との関連は、今回新たに認められたことであり、今後さらに調査・研究を進めることで、病因解明の手がかりを得られることが期待されます。

用語解説

乳児血管腫について

乳児血管腫は皮膚にできる盛り上がるタイプの赤あざで、未熟な毛細血管が増殖する良性の腫瘍です。見た目が赤くいちごのような外観からいちご状血管腫とも呼ばれます。乳児血管腫は生まれて数日〜数週間後から徐々にあらわれ、6〜12ヶ月かけて大きさのピークを迎え、その後5〜10歳で自然消退すると言われています。大きさはさまざまで1cm以下の小さなものから、10cm以上の大きなものや広範囲に及ぶものもあります。
治療しなくても自然に赤みが引くため、以前は特に治療を行わず経過観察のみを行うことが多くありました。しかし、ピーク時にサイズが大きくなると、そのときに伸びた皮膚が縮みきらずたるみやしわのように残ってしまうことがあるため、早期にレーザー治療や内服などの治療を開始することが多くなってきています。早期の治療が血管腫の大きさのピークをおさえて、最終的なたるみやしわを軽減してくれるからです。

レニン

レニンは腎臓の糸球体でつくられるタンパク質分解酵素の一種です。血液中のアンジオテンシノーゲンというタンパク質に働きかけ、アンジオテンシンⅠというホルモンを作る働きを通じて血圧をコントロールする役割を担っています(レニン・アンジオテンシン系)。このレニン・アンジオテンシン系が乳児血管腫の血管の増殖に関わっている可能性があると考えられています。

オッズ比

オッズとは、ある現象の起こりやすさを、ある現象が起こる回数(人数)÷ある現象が起こらない回数(人数)として表した値であり、オッズ比とは、この値の比のことです。 本研究では、乳児血管腫が発症しなかったグループのオッズを基準(=1)とすると、ほかのグループでは乳児血管腫の発症するオッズが「何倍(いくつ)」になるかを示すために使っています。各グループのグラフ上に示された値(=オッズ比)が、1より大きいと起こりやすい、1より小さいと起こりにくいと言えます。

95%信頼区間

調査の精度を表す指標で、精度が高ければ狭い範囲に、低ければ広い範囲となります。

資料

プレスリリース[PDF, 635KB]