PDGFRαを介した細胞シグナルが固形癌の増悪と肺転移を調整していることを解明
ポイント
- PDGFRα※1)をノックアウトしたマウスでは、TGF-αが関与する腫瘍細胞の増殖が亢進しており、TGF-βによる腫瘍細胞の転移能の活性化が促進されていた。
- PDGFRαをノックアウトしたマウスでは、VEGF-Aの発現亢進などの影響で腫瘍血管の脆弱性が増加して低酸素化が促進されており、腫瘍細胞の転移能の活性化に関与していた。
- PDGFRαをノックアウトしたマウスでは、TGF-αやTGF-βシグナルの下流でAKT1の活性化が亢進し、そのことが肺転移促進の鍵であることが示された。
概要
これまで腫瘍の発生および増殖分子メカニズムについて多くの研究がなされてきました。しかしながら、それら分子メカニズムには未解明な部分が多く残されています。我々は、PDGFRαを発現するルイス肺癌(LLC)細胞を移植した成体のPDGFRα条件付きノックアウト(α-KO)マウスを用いて、血小板由来増殖因子(PDGF)とその受容体(PDGFR)が関与する細胞シグナル※2)伝達機構を検討しました。その結果、予想外にもα-KOマウスでは、コントロールマウスと比較して腫瘍が大きくなり、広範な肺転移が認められました。その分子メカニズムとして、LLC細胞におけるPDGF-BB-PDGFRαシグナル軸の活性化により、トランスフォーミング増殖因子-α(TGF-α)が上皮成長因子受容体(EGFR)を介した細胞シグナルによって腫瘍増殖を促進していたことが明らかになりました。また、α-KOマウスは腫瘍血管新生が不十分で周皮細胞の被覆率が低いことが認められ、低酸素状態とトランスフォーミング増殖因子-β1(TGF-β1)の発現増加に関与していると考えられました。さらに、TGF-β1は、AKT1活性とともに肺転移の促進を決定する重要な分子であると考えられました。本研究のポイントは、マルチプルな細胞シグナルが大幅ではないが連鎖的に活性化することで腫瘍の増殖や転移が促進されることを解明したことです。また、我々が提示した知見は、間質細胞におけるPDGFRαが腫瘍進行に対して、結果的に保護的役割を果たすことを示し、腫瘍細胞に対するPDGFRαの選択的阻害が治療アプローチとして考慮すべきであることを示唆しています。
本研究成果は、「Neoplasia」に 2025年11月3日(月)(日本時間)に掲載されました。
本研究成果は、富山大学 学術研究部医学系 病態・病理学講座、皮膚科学講座、分子神経科学講座、教養教育院、富山県薬事総合研究開発センターなどの共同研究によるものです。

用語解説
※1)PDGFRα
細胞の増殖、生存、発生などに関与する受容体型チロシンキナーゼのこと。血小板由来増殖因子(PDGF)と結合して細胞シグナルカスケードを活性化する。
※2)細胞シグナル
細胞が外部からの刺激に応答したり、他細胞とのコミュニケーションの際に細胞内や細胞間で情報を伝達する仕組みのこと。
研究内容の詳細
PDGFRαを介した細胞シグナルが固形癌の増悪と肺転移を調整していることを解明[PDF, 300KB]
論文情報
論文名
PDGFRα governs multiple cellular signals and plays a protective role in tumor progression
著者
Masao Hayashi, Noriko Okuno, Le Thi Thu Trang, Ayaka Inami, Yosei Kato, Takeru Hamashima, Dang Son Tung, Yasuharu Watanabe, Rieko Kojima, Miwa Fujikawa, Akari Ejiri, Tomomi Kunisawa, Fumiko Itoh, Masashi Muramatsu, Tran Ngoc Dung, Dang Thanh Chung, Pham Van Thinh, Takeharu Minamitani, Tsutomu Yanagibashi, Toshihiko Fujimori, Hisashi Mori, Teruhiko Makino, Katsuyoshi Takata, Tadamichi Shimizu, Masakiyo Sasahara, Seiji Yamamoto
掲載誌
Neoplasia
DOI
https://doi.org/10.1016/j.neo.2025.101248
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富山大学学術研究部医学系
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