TOPICS

母体喫煙と乳児の喘鳴(ぜんめい)および喘息発症との関連について

富山大学医学部小児科学講座の和田拓也(現・富山市民病院)および富山大学学術研究部医学系小児科学の足立雄一教授らのグループは、母親の妊娠中の喫煙と出生した子どもの喘鳴および喘息との関連について調査しました。

質問票調査の結果、妊婦の喫煙は、本人の喫煙か受動喫煙かにかかわらず、子どもの喘鳴および喘息のリスクを増加させることがわかりました。さらに、母親の妊娠中の喫煙は、母親本人がアレルギー性疾患である場合、子どもの喘鳴および喘息のリスクをより一層増加させることがわかりました。

ここ数十年の短期間に見られるアレルギー疾患の有病率増加は、遺伝的要因だけでは説明できず、妊婦や乳幼児を取り巻く様々な環境要因が影響していると考えられます。その一つに、喘鳴・喘息に及ぼすタバコの影響があります。これまでの研究では、母親の妊娠中の喫煙が胎児の肺胞形成を遅らせ、出生児に肺機能障害をもたらすという報告がありました。また最近では、2歳までの小児について「喘鳴発症には出産前後の母親の喫煙」が、「喘息有病率には出産前の母親の喫煙」が、それぞれリスクを増加させることが示されました。しかし母親が、いつ、どのような状況でタバコの煙にさらされると、出生児の喘鳴・喘息のリスクが増加するのかについてはまだよくわかっていません。

そこで本研究では、90,210組の親子について、タバコ煙曝露の状況を「①母親の妊娠中の喫煙状況」「②母親の妊娠中の受動喫煙状況」「③出生児の受動喫煙状況」の3つの項目に分け、出生児の喘鳴・喘息発症との関連を検討・解析しました。それぞれの項目の詳細は以下の通りです。

タバコ煙曝露の状況
  • ①母親の妊娠中の喫煙の有無および喫煙状況
    • 「喫煙したことがない」
    • 「妊娠前に禁煙した」
    • 「妊娠初期に禁煙した」
    • 「1日1~10本喫煙する」
    • 「1日11本以上喫煙する」
  • ②母親の妊娠中の受動喫煙状況
    • 「週1日以下」
    • 「週2~3日」
    • 「週4~6日」
    • 「毎日」
  • ③出生児の受動喫煙状況
    • 「なし」
    • 「屋外」
    • 「屋内」
出生児の症状
  • 喘鳴:「生まれてから1歳までに胸がゼーゼー、ヒューヒューしたことがある」
  • 喘息:「生まれてから1歳までに医師により喘息と診断されたことがある」

その結果、出生児におけるタバコ煙曝露状況と喘鳴・喘息の発症の関連は、次のような結果となりました。

まず母親の妊娠中の喫煙は、喫煙しない場合と比較し、生後1歳時における出生児の喘鳴・喘息の発症リスクを増加させることがわかりました。特に母親にアレルギー疾患がある場合は、出生児の発症リスクをより一層増加させることがわかりました。また今回の調査では、妊娠初期に禁煙した場合でも出生児の喘鳴発症のリスクが増加していました。しかし他研究の報告では、妊娠の期間や時期と、母親の喫煙および出生児の喘鳴発症には、必ずしも関連が見られないという結果もあり、一致した見解は得られておりません。このことから、妊娠中のどの時期での喫煙が胎児に影響し、出生児の喘鳴・喘息発症に関連するのかを明らかにするためには、さらなる研究が必要です。

次に母親の妊娠中の受動喫煙は、生後1歳までの喘鳴の発症リスクを頻度を問わず増加させ、受動喫煙の頻度が高くなるほどリスクもより増加しました。特に毎日受動喫煙した場合は、喘鳴だけでなく喘息の発症リスクも増加しました。さらに、もともと非喫煙者である母親のみの分析でも同様の結果が出ています。これらのことから、胎内で受動喫煙による副流煙に頻繁にさらされることは、出生児の喘鳴・喘息の発症につながると推測されます。

最後に出生児の受動喫煙については、喘息発症リスクとの関連はみられなかったものの、屋内、屋外ともに、副流煙にさらされていない場合と比べて、生後1歳までの喘鳴の発症リスクが増えました。

今回の研究は自己記入の質問票によって喫煙状況や喘鳴の有無を調べたため、回答結果が実際の喫煙状況を正確に反映していない可能性があります。また、生後1歳までの喘鳴は喘息以外の健康状態と関連している可能性があるため、引き続き調査・検討が必要です。

しかし、母親の妊娠中の喫煙および母子の受動喫煙が子どもの喘鳴・喘息のリスクを増加させるという今回の研究結果は、妊娠中の母親本人だけでなく、産後の母子に関わるすべての喫煙者の禁煙の重要性を示し、禁煙を推進する根拠の一つを示すことができたと考えられます。さらに検討を続けることで、母親の喫煙と母子の受動喫煙が与える、子どもの呼吸器系の健康への長期的な影響について明らかになっていくことが期待されます。

この研究成果は医学系専門誌「Allergology International」に2021年6月14日にオンライン掲載されました。

プレスリリース[PDF, 536KB]

用語解説

喘鳴(ぜんめい)

呼吸をする際に空気の通り道(気道)が狭いと聞こえる「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」といった音を喘鳴と言います。クループなど喉のあたりの気道が狭い状態では息を吸った時に聞こえ、喘息など気管支が細くなる状態では息を吐く時に聞こえてきます。症状が強くなると息苦しくなり、呼吸の回数が多くなります。

副流煙

タバコを吸う際、タバコの先端の燃焼部分から立ち上る煙のことです。
タバコの煙は、喫煙者の口を通して吸い込まれるものを主流煙と呼び、先端の点火部分から立ち上る煙を副流煙と呼びます。
副流煙に含まれる化学物質は、主流煙に含まれる成分とほぼ同じですが、主流煙よりも多くの有害化学物質を含むことがわかっています。