TOPICS

肥満状態において、CD206+ M2マクロファージからTGF-β1を欠損させると、肥満によって引き起こされる骨格筋における筋形成の抑制およびAMPKのリン酸化が改善される

概要

 富山大学未病研究センターのムハンマド・ビラール特命助教、戸邉一之特別研究教授および、富山大学学術研究部医学系内科学第一講座(加藤 将教授)の藤坂志帆准教授らの研究グループは、CD206陽性M2マクロファージ※1)に特異的にTGF-β1※2)遺伝子を欠損させたマウスを用いて、高脂肪食による肥満に伴う骨格筋機能障害が改善されることを明らかにしました。
本研究では、マクロファージ由来TGF-β1の欠損が、骨格筋内の線維脂肪前駆細胞(fibro-adipogenic progenitors: FAPs)※3)を活性化し、フォリスタチン(Fst)※4)およびフォリスタチン様タンパク質1(Fstl1)の発現を増加させることで、筋形成を促進することを示しました。さらに、脂肪組織からのアディポネクチン※5)分泌を増加させ、骨格筋におけるAMPK/SIRT1/PGC-1αシグナル経路※6)を活性化することで、ミトコンドリア機能を改善することも明らかにしました。
その結果、運動耐容能、握力および懸垂時間が顕著に改善しました。本研究成果は、肥満や2型糖尿病に伴うサルコペニア(筋肉量および筋機能の低下)に対する新たな治療標的の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年6月18日に英国科学誌「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」にオンラインで公開されました。

ポイント

  • 肥満に伴うサルコペニア(骨格筋機能の低下や筋量の減少)では、骨格筋におけるインスリン抵抗性、慢性炎症、ミトコンドリア機能障害が生じ、筋力や運動機能の低下を引き起こします。しかし、骨格筋に存在するCD206陽性M2マクロファージが分泌するTGF-β1が、骨格筋機能の維持にどのような役割を果たしているかは明らかではありませんでした。
  • 研究では、CD206陽性M2マクロファージ特異的にTGF-β1遺伝子を欠損させたマウス(TGF-β1 KOマウス)を作製し、高脂肪食誘導性肥満モデルにおける骨格筋機能を解析しました。その結果、TGF-β1 KOマウスでは、骨格筋内の線維脂肪前駆細胞(FAPs)が活性化され、フォリスタチン(Fst)およびフォリスタチン様タンパク質1(Fstl1)の発現が増加しました。これに伴い、筋形成関連遺伝子やI型・II型筋線維関連遺伝子の発現が上昇し、筋萎縮が抑制されました。
  • さらに、TGF-β1 KOマウスでは脂肪組織からのアディポネクチン分泌が増加し、骨格筋におけるAdipoR1発現の増加を介してAMPK/SIRT1/PGC-1αシグナル経路が活性化されました。その結果、ミトコンドリア機能および脂肪酸酸化能が改善し、運動耐容能(走行距離・走行時間)、握力、懸垂時間が対照群と比較して有意に向上しました。

用語解説

※1)M2マクロファージ(CD206陽性マクロファージ)
抗炎症性のマクロファージで、組織の修復・再生に関与する。

※2)TGF-β1(トランスフォーミング増殖因子-β1)
細胞の増殖・分化や免疫応答を調節するサイトカインで、線維化にも関与する。

※3)線維脂肪前駆細胞(FAPs)
骨格筋内に存在する間葉系前駆細胞で、筋成長に必要なフォリスタチンなどを分泌する。

※4)フォリスタチン(Fst)・フォリスタチン様タンパク質1(Fstl1)
クチビンの作用を阻害し、筋形成・筋肥大を促進するタンパク質。

※5)アディポネクチン
脂肪組織から分泌されるホルモンで、AMPK経路を活性化し、糖・脂質代謝を改善する。

※6)AMPK/Sirt1/PGC-1α経路
細胞のエネルギーセンサーであるAMPKを中心とした、ミトコンドリアの生合成・機能を調節する経路。

研究内容の詳細

肥満状態において、CD206+ M2マクロファージからTGF-β1を欠損させると、肥満によって引き起こされる骨格筋における筋形成の抑制およびAMPKのリン酸化が改善される[PDF, 1MB]

論文情報

論文名

Deletion of Tgf-β1 From CD206+ M2 Macrophages Ameliorates Obesity-Induced Suppression of Myogenesis and AMPK Phosphorylation in Skeletal Muscle

著者

ムハンマド ビラール (Muhammad Bilal)2,3
リー・ダク・アン (Le Duc Anh)1,4
グエン・クイン・フォン (Nguyen Quynh Phuong)1,4,5
サナ カリド (Sana Khalid)6
アラー ナワズ (Allah Nawaz)1,7
メムーナ (Memoona)1
ムハンマドラヒールアスラム(Muhammad Rahil Aslam)1,3
角 朝信 (Tomonobu Kado)1
渡邊 善之 (Yoshiyuki Watanabe)1,6
西村 歩 (Ayumi Nishimura)1
五十嵐 喜子 (Yoshiko Igarashi)1,2
アーミル シャリフ (Aamir Sharif)8
小野木 康弘 (Yasuhiro Onogi)2
和田 努 (Tsutomu Wada)9
林 隆司 (Ryuji Hayashi)5
平林 健一 (Kenichi Hirabayashi)10
山本 誠士 (Seiji Yamamoto)11
中川 崇 (Takashi Nakagawa)12
森 寿 (Hisashi Mori)6
薄井 勲 (Isao Usui)13
加藤 将 (Masaru Kato)1
藤坂 志帆 (Shiho Fujisaka)1
戸邉 一之 (Kazuyuki Tobe)2,14

所属

1 富山大学学術研究部医学系 内科学第一講座
2 富山大学学術研究部教育研究推進系 未病研究センター
3 日本糖尿病学会 特別研究員
4 Stem Cell Center and Tissue Bank, Phenikaa University Hospital, Phuong Canh, Hanoi, Vietnam
5 富山大学学術研究部医学系 臨床腫瘍部
6 富山大学学術研究部医学系 分子神経科学講座
7 Section of Integrative Physiology and Metabolism, Joslin Diabetes Center, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
8 山梨大学医学部 神経生理学講座
9 富山大学学術研究部薬学系 臨床薬理学講座
10 富山大学学術研究部医学系 病理診断学講座
11 富山大学学術研究部医学系 病態・病理学講座
12 富山大学学術研究部医学系 分子薬理学講座
13 獨協医科大学 内分泌代謝内科
14 富山大学学術研究部医学系

掲載誌

Journal Cachexia Sarcopenia Muscle

DOI

https://doi.org/10.1002/jcsm.70322

お問い合わせ

富山大学未病研究センター
特別研究教授 戸邉 一之(トベ カズユキ)

  • 〒930-0194 富山県富山市杉谷2630
  • TEL: 076-434-7219
  • FAX: 076-434-7219
  • E-mail:

富山大学学術研究部医学系 内科学第一講座
准教授 藤坂志帆(フジサカ シホ)

  • 〒930-0194 富山県富山市杉谷2630
  • TEL: 076-434-7287
  • FAX: 076-434-5025
  • E-mail: