海洋底の拡がり始めは必ずしも熱くない
地殻熱流量と地下構造から判明した新たな地殻拡大メカニズム
ポイント
- 熱が少なく冷たい状態でも、広範囲に分布する正断層によってリフトという地殻の凸凹地形が作られていくことを発見
- 広域的なマグマ供給の証拠が乏しい条件下でも海洋底拡大が進行する可能性を提示
- 東シナ海における地震リスク評価や防災計画に重要な知見を提供
概要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)活断層・火山研究部門 大坪 誠 研究部門付らの研究チームは、沖縄トラフ南部で高精度の反射法地震波探査、地殻熱流量測定などを行い、広域的なマグマ供給の証拠が限られた状態で海洋底拡大が進行する可能性を示しました。
背弧海盆(はいこかいぼん)は、プレートが沈み込む場所の近くで地殻が引っ張られて割れ、海底が拡大することで形成される海の盆地です。このような海洋底が拡大した背弧海盆は日本海をはじめ、地球上に10カ所ほどあり、地下深くから上がってくるマグマの熱によって地殻の強度が下がることでその形成が進行すると考えられています。しかし、海洋底拡大の初期段階において、どのような条件で地殻の凸凹地形であるリフトができるのかはまだよくわかっていません。
東シナ海の海底に広がる細長いくぼ地である沖縄トラフは、世界でも数カ所しかない、まさに海洋底が拡大する初期段階にある場所の一つです。今回、研究チームは沖縄トラフ南部の八重山海底地溝と与那国海底地溝でさまざまな海洋調査を実施しました。その結果、海底の地殻熱流量と海底下の断面図より、熱が少なく冷たい状態でも正断層が広範囲に広がることで地殻の凸凹地形が作られることを発見しました。また、局所的なマグマ活動の可能性はあるものの、広域的には熱流量の小さい条件下で、正断層の発達によって海洋底拡大が進行する可能性を示しました。本成果は、海洋地質学および地球物理学分野におけるプレート沈み込み帯での地殻形成プロセスの理解を進めるものであり、深海科学掘削の実施など今後のさらなる研究が期待されます。
なお、この成果の詳細は、2026年10月21日に「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載されます。

用語解説
反射法地震波探査
ここでは海面付近からエアガンと呼ばれる機材により人工的に振動(地震波)を送り、地下の異なる地層で反射して戻ってくる波を観測して地下の構造を調べる方法。地下の様子を病院のエコー検査のように画像化することができる。
地殻熱流量測定
温度計を海底に差して地中の温度を深さごとに測り、地球の内部から地表に向かってどのくらいの熱が流れているかを調べる方法。このデータにより、地下の温度分布や火山活動などを理解できる。
リフト
地殻が引き裂かれるように伸びて作られる細長い凹地状の構造であり、地溝とも呼ばれる。地殻が薄くなり沈降することで作られる。
正断層
地下の岩盤が引っ張られる力によって割れ目(断層)ができ、その片方がずり落ちるようにずれる事象。正断層によって大地が上下に動くことで、山や谷などの地形が作られる。
研究内容の詳細
海洋底の拡がり始めは必ずしも熱くない
地殻熱流量と地下構造から判明した新たな地殻拡大メカニズム[PDF, 1.7MB]
論文情報
論文名
Distributed normal faulting and relatively low heat flow conditions during early rifting in the southern Okinawa Trough
著者
Makoto Otsubo, Masataka Kinoshita, Minoru Ikehara, Ryuta Arai, Ayanori Misawa, Hiroaki Koge, Katsura Kameo, Chiori Tamura, Ryoji Toda, Stephen P. Obrochta, Takanori Kagoshima, Tomohiro Toki, Daisuke Kuwano, Seiya Fujishima, Akane Yamamoto, Natsuki Nomura, Aya Osanai, Keita Kono, Issui Ikuma, Chika Onai, Yusei Miyamoto, Yuka Taira, Yu Miyagi, Soma Sato, Michelle M. Nishimoto, Yukihiko Nakano, Hikaru Iwamaru, Yu Suzuki
掲載誌
Progress in Earth and Planetary Science
DOI
https://doi.org/10.1186/s40645-026-00854-3

